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12月21日:磁場で遺伝子発現を調節する(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2014年12月21日
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遺伝子の発現を自分の希望する時間と場所で調節する技術は、体の中で特定の遺伝子がどう作用するか確かめるためには必須の技術で、これまで様々な方法が開発されてきた。私自身が使ったことのある方法は、ホルモンや化合物をマウスに投与して遺伝子発現を活性化させる方法だが、この方法だと投与後どうしてもタイムラグがあり、また刺激もすぐに止まらず一定時間続く。したがって、化学刺激の代わりに時間コントロールのしやすい物理的刺激を使って刺激をシャープにするための試みが続いている。ここでも紹介した光遺伝学はその例だが、光は透過性の点でどうしても限界がある。今日紹介するロックフェラー大学からの論文では、熱や力を感じるセンサーを使ってこれを達成しようとしている。タイトルは「Rmemote regulation of glucose homeostasis in mice using genetically encoded nanoparticles(遺伝的に組み込んだナノ粒子を使って糖のホメオスターシスを遠隔操作する)」で、Nature Medicineオンライン版に掲載されている。詳細は割愛して、開発された技術をまとめると次のようになる。まず遠隔操作にはラジオ波を用いている。ラジオ波は医療の現場で体内を局所的に温めるために使われており、ラジオは照射装置はすでに多く開発されている。金属ナノ粒子を使うとこの熱を最も感度よく感知できるが、今度は金属ナノ粒子を目的の細胞内に送る方法が必要になる。代わりに、もともと金属を結合する分子トランスフェリンがこの目的に使えないか調べるのがこの研究の主目的だ。次にトランスフェリンが捕捉した金属の熱や振動を感知するために、カプサイシン受容体を使っている。カプサイシンは唐辛子の成分で、この激しい辛さに対する反応は、カプサイシン受容体によって担われているが、この受容体はもともとイオンを通すチャンネルで、温度刺激に応じて開閉してカルシウムイオン流入させて刺激を伝える。この研究では様々な分子構造を検討して、カプサイシン受容体に直接トランスフェリンを結合させた時に、鉄粒子に捕捉された熱が具合良くカプサイシン受容体に伝わってイオンチャンネルを開くことができることを突き止めている。チャンネルから流入したカルシウムは細胞内でカルシウムに反応して遺伝子発現を誘導するカルシニュウリン、とNFATによってリレーを行い、最終的にインシュリンが発現するようにしている。まとめると、ラジオ波で刺激すると、カプサイシン受容体に結合したトランスフェリンが捕捉している鉄が反応し、カプサイシン受容体の構造を変化させカルシウム流入が起こる。このカルシウムをカルシニュウリンが感知し、NFATをリン酸化し、インシュリン遺伝子をオンにするという複雑な回路を細胞内に構築することに成功している。この分子群を組み込んだビールスベクターマウスに投与すると、期待通りラジオ波に反応してインシュリンを分泌して、血糖を低下させることができる。最後に、鉄が捕捉されているなら強力な磁場でも刺激できないか試み、磁場でも遺伝子発現を誘導できることを示している。言ってみれば、トランスフェリン分子で引っ張られてチャンネルを開けることができるという面白い結果だ。話はここまでで、まず磁場やラジオ波で遺伝子を任意の場所・時間に誘導できることが示された。ラジオ波や磁場は体の深部に到達できることから、新しい遺伝子発現調節法として発展するかもしれない。一方、臨床応用を考えると、私たちが磁場やラジオ波に囲まれて生きているとすると、簡単ではない気がする。しかしいろんなことを考え実現していく人がいる。生命操作という点から見ると、百花繚乱の面白い時代だと感じている。

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