AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月10日 脂肪移植を用いて腫瘍増殖を抑制する(2月4日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2月10日 脂肪移植を用いて腫瘍増殖を抑制する(2月4日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2025年2月10日
SNSシェア

今月のジャーナルクラブは、2月21日19時から、いつも参加いただいている堀尾先生のリクエストに応えて、ガンと代謝について最近の研究を概観してみたいと思っている。ガンは正常細胞と競争して高い増殖力を維持するために、代謝レベルのリプログラミングが起こっている。逆に言うと、この過程でアキレス腱が生じて、そこを標的にすると治療が可能になる。そのため、世界中でガンの代謝リプログラムについての研究が進んでおり、正直どうまとめればいいのか現在苦慮しているところだ。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、新しい発見というわけではないが、ともかく代謝を変化させることでガンの増殖を抑えることができることを素朴な発想で示した研究で、2月4日 Nature Biotechnology にオンライン掲載された。タイトルは「Implantation of engineered adipocytes suppresses tumor progression in cancer models(人為的操作を加えた脂肪組織を移植することでガンの増殖を抑えることができる)」だ。

脂肪組織の移植というのは少しセンセーショナルだが、結論的には代謝の活発な褐色脂肪組織はガンと競合することで増殖を抑えられるというのが結論になる。

実際、2年前カロリンスカ大学のグループが、担ガンマウスを耐えられるギリギリの摂氏4度で維持すると、熱を発生するために褐色脂肪組織が活性化され、ガンの増殖が抑えられることを発表しているが(Nature 608, 421,2022)、寒さに耐えさせる代わりに褐色脂肪組織を人工的に誘導して移植してガンを抑える可能性を追求した。

この研究の最も重要なメッセージは、転写を活性化する CRISPRa を用いて、体内から取り出した脂肪細胞で3種類の遺伝子を活性化すると、褐色脂肪組織に対応する脂肪組織を誘導できるというエンジニアの方法だろう。

こうしてできた脂肪組織をガンを移植した場所に移植すると、ガンの増殖を抑えることができる。大事なのは、これが移植した脂肪組織によって全身の代謝が変化するからで、脂肪組織でグルコースの取り込みが高まり、脂肪の分解が進む結果、ガンのグルコースや脂肪酸の利用率が低下し、さらに代謝状態が変化するためインシュリン感受性が高まり、インシュリンレベルが低下することもガンには痛手になる。

従って、脂肪組織はガンの近くに移植する必要はなく、離れた場所でも効果が見られる。逆に、せっかく脂肪組織を移植しても、高脂肪食やグルコースの取り込みを高めるとガンの増殖を抑えることはできない。

結果は以上だが、これを示すため様々なガンのモデルを用いている。また、人間の脂肪組織の移植も行って、人間でもこの治療が可能であることを示唆している。

脂肪組織を取り出して、培養細胞株を樹立、それに遺伝子導入して褐色脂肪組織のオルガノイドを形成するなど、Biotechnology としては面白いが、翻って考えるといくら移植しても我々が持っている脂肪組織の量にはかなわない。従って、もし脂肪組織の一部でも褐色細胞へリプログラムできれば、ガンを抑える可能性はあり、実際寒さに晒してガンを抑える研究はそれを示している。また、ガンの末期悪液質が始まると急速に脂肪組織が減少し、ガンの抑制が効かなくなるのは誰もが認識している。このように、ガンの代謝は難しくもあるが、わかりやすい側面もある。さて、21日どうまとめるか。

  1. okazaki yoshihisa より:

    転写を活性化する CRISPRa を用いて、体内から取り出した脂肪細胞で3種類の遺伝子を活性化すると、褐色脂肪組織に対応する脂肪組織を誘導できるというエンジニアの方法
    Imp:
    エネルギーの奪い合い。
    人間でもこの治療が可能!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。