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2月21日 腫瘍は協力し合って栄養分を調達する(2月19日 Nature オンライン掲載論文)

2025年2月21日
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本日午後7時から「ガンと代謝」についてのジャーナルクラブを予定している。ガンで起こる代謝のリプログラミングについて、有名なワーブルグ効果の話から始めてできるだけ多く伝えたいと思うが、学べば学ぶほど複雑できりがない。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文もまさにそんな例で、これまで見落とされていたガンが協力し合って栄養分を調達しているという面白い研究で、2月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cooperative nutrient scavenging is an evolutionary advantage in cancer(協力的栄養分の取り込みがガンの進化的優位性になる)」だ。

現役の頃、細胞培養はまだまだ科学的に説明がつかない経験的要素が多かった。例えば単一細胞の培養は難しく、常にフィーダーを加えるなど様々な工夫が必要だった。なかでも、細胞株は一定の濃度で培養しないと、ガン細胞でも増殖しないのが当たり前だった。

この研究では、なぜ細胞濃度が一定のレベルを超えると、ガン細胞が増殖しやすいのか?すなわち、細胞同士の協力が重要な要素ではないかについて追求している。そして、この協力関係はグルタミンを十分培地に加えると必要がないことをまず発見している。すなわち細胞濃度が低いとき、細胞同士は協調してなんとかグルタミンを調達していることになる。

協調しないと調達できないグルタミンのソースを探すと、細胞によって分解されるタンパク質のフラグメント、なかでもグルタミンに他のアミノ酸が結合したジペプチドではないかと着想し、グルタミンの代わりにジペプチドを培養に加えると、グルタミンが結合したジペプチドなら殆どが一定程度の効果があることを確認する。その中で最も効果が高かったアラニン・グルタミンというジペプチドをその後の研究で用いている。

ラベルしたジペプチドを用いた実験などから、ジペプチドが直接細胞内に取り込まれて処理される可能性は否定され、細胞からまずジペプチダーゼが分泌され、分解されてできたグルタミンをガン細胞が利用していることがわかった。

阻害剤を用いて分解に関わるジペプチダーゼを探索すると、最終的に様々な細胞で広く発現がみられるCNDP2 が関わっていることを突き止める。CNDP2 は細胞から分泌される構造を持っておらず、正常細胞では細胞内で機能するが、なぜかガン細胞ではこれが分泌され、そのおかげで細胞外に存在するジペプチドを協力し合って分解し、グルタミンを調達していることがわかった。

もちろん細胞密度が低い場合も CNDP2 は分泌されるが、酵素濃度は低く、また分解されたグルタミン濃度も効率よく取り込める濃度に達しないため、グルタミン飢餓で細胞が死ぬことになる。

次に CDNP2ノックアウトガン細胞の移植実験で、CDNP2 がガンの増殖に必須であることを確認した上で、遺伝子導入発ガン実験で CDNP2阻害活性を持つベスタチン投与実験を行い、ガンの発生を抑えられることを示している。

マウスを用いた実験では、ジペプチドを食事とともに与えるようにしてガンがジペプチドに依存するような条件を用いているので、通常食でもガン抑制効果が見られるかなど、さらに検討する余地があるが、正常細胞では分泌されない CDNP2 を標的にすることは十分な可能性があると納得がいく。ガンの代謝研究が進んでもなかなか薬剤開発までは進まないのが現状だが、CDNP2阻害剤は魅力的に感じる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    この協力関係はグルタミンを十分培地に加えると必要がないことをまず発見している!
    Imp:
    グルタミン酸が肝だったとは!

    1. nishikawa より:

      今日も話題になると思いますが、グルタミン酸からTCAサイクルは鍵になっています。例えば、膵臓がんは白血病と異なりアスパラギナーゼだけでは治療できないのですが、グルタミン利用をブロックすると叩けるようです。

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