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2月23日 B型肝炎ウイルスを学び直せた(2月20日 Cell オンライン掲載論文)

2025年2月23日
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医師として働いていた20代、A型とB型肝炎にかかった。A型肝炎は新人歓迎会シーズンに罹患したので、そのときの飲食の結果だが、B型は自殺未遂の患者さんを治療したときに感染した。今から考えると、当時は手術時以外手袋をすることがなく、医師にとっては極めて危険な時代だった。幸い急性で終わって現在までアルコール摂取にもかかわらず肝臓は元気でいてくれているが、今から考えると冷や汗が出る。いずれにしても、21世紀に入って様々な薬剤が開発され、個人的には興味の対象から外れ、殆ど論文を読んだことはなかった。

ところが今日ロックフェラー大学、コーネル大学、そしてスローンケッタリング ガン研究所からの論文を読んで B型肝炎ウイルス (NVB) にも様々な面白い特徴があることを知り、改めて肝炎のことを学び直せた。タイトルは「A nucleosome switch primes hepatitis B virus infection(ヌクレオソームのスイッチが B型肝炎ウイルス感染の準備を整える)」だ。

HAV や HCV と異なり HBV は二重鎖DNA をゲノムとして持っており、さらに細胞膜から借りてきたエンベロープの下にウイルスのコア粒子を持っている。まず HB抗原を使って細胞内に侵入すると、コア粒子が核膜を突き破りウイルスゲノムを核内で放出すると、環状プラスミドに変わりさらにヒストンによって修飾されることがわかっている。この最初の段階で重要なのは、ウイルスによりコードされた Xタンパク質で、ホストのウイルスへの抵抗性を抑えるだけでなく、多様の機能があり、ウイルスによるガン化にも大きく関わるとされている。

この研究が問題にしたのは、ウイルス感染初期に最も重要な Xタンパク質の転写過程がわからず、感染細胞が血中から取り込んでいるとする極端な意見があるほど混乱している点だ。ウイルスゲノム上に Xタンパク質は存在しているが、明確な TATAプロモーターは存在しないため、一度ホストゲノムに組み込まれて Xタンパク質が血中に供給されるという考えのベースになっている。

この研究では環状を担ったウイルスゲノムを細胞に導入する方法を確立し、特に Xタンパク質に絞って転写のプロセスを、時間経過を追って観察している。そして、HBVゲノムの場合ヒストンが結合しクロマチン構造が形成されたあとに転写が始まり、特に Xタンパク質は導入後4−8時間でクロマチンが形成された直後にまず転写されることを発見した。他の遺伝子の転写は通常ホストにより抑えられるため、Xタンパク質ができて、抑制機構を外さないと始まらない。

さらに、これまで知られているヌクレオソームを不安定化させる化合物を用いると、Xタンパク質の転写が抑制されることを明らかにし、ヌクレオソーム形成自体が Xタンパク質の転写をオンにしていることを発見する。

最後に、通常のウイルス感染でもクロマチン構造を不安定化させる化合物で処理しておくと、ウイルス感染を抑制できることも示している。

結果は以上で、残念ながらなぜヌクレオソームが形成されることが転写開始をオンにするのか詳しいメカニズムはわかっていない。ただ、TATA といった典型的なプロモーター構造を持たない Xタンパク質のプロモーター領域にヌクレオソームが形成されること、それと同時にメディエーターと RNAポリメラーゼが結合してくることは確認している。しかし、HBV感染過程もまさにプロ研究者の段階に入ってきた。

この論文を読んで、HBV の感染過程、特に初期段階をよく理解することができたが、Xタンパク質が必要な時期は多いので、創薬標的の一つになる可能性もある。しかし、感染症は多様で学びがいがある。

  1. okazaki yoshihisa より:

    最初の段階で重要なのは、ウイルスによりコードされたXタンパク質で、ホストのウイルスへの抵抗性を抑えるだけでなく、多様の機能があり、ウイルスによるがん化にも大きく関わる!
    Imp:
    ギリアド社あたりが、こうした基礎研究を基に、アット驚く創薬をやってのけるんでしょうね。

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