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3月2日 移動している自分についての感覚(2月19日 Cell オンライン掲載論文)

2025年3月2日
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私たち人間は、乗り物を通して自分の能力以上の移動を行っている。例えば電車に座っているとき、特に歩いていないが窓の外の景色で動きを感じているし、電車の加速や減速に伴い、前庭器官を通しても動きの感覚を得ている。ただ人間の場合、現在電車に乗っているといる認識に基づくトップダウンの調節の寄与は極めて大きいと思う。これは動く歩道を考えてみるといいだろう。腰より下が見えないようにして前に歩いていて急に動く歩道に乗ったら殆どの人は転ぶ。しかし、「動く歩道に乗ることがわかると、同じスピードで歩いたままで、さらに例えば2km/hの速度が追加されても転ばない。

今日紹介するロンドン大学からの論文は、トップダウンの認識を完全に遮断した上で、動物が運動をどのように感じているのか、大がかりな方法で調べた面白い論文で、2月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Motor and vestibular signals in the visual cortex permit the separation of self versus externally generated visual motion(運動と前庭シグナルから視覚野へのシグナルが視覚野で感じる運動が自発的か受動的かを区別する)」だ。

トップダウンの調節を排除すると、運動を感じるのは、視覚上の変化、前庭器官による加速度感覚、そして自分の運動についての身体感覚になる。ただ、これら全ての感覚を同時に記録するのは難しい。というのも広い空間を自由に動ける条件で、視覚インプットをコントロールしながら脳記録を行う装置は全くできないというわけではないと思うが、簡単ではない。そこで、トレッドミル上で運動させながら景色をそれに合わせて変化させる装置が用いられる。ただ、これだと前庭からのシグナルは変化しない。従って、頭の向きを急に変えると行った実験以外は3種類のインプットを全て追跡することはできなかった。

これに対し、この研究ではトレッドミル上で視覚インプットを変化させ脳記録を行う装置をなんと1.5m移動して前庭のシグナルを発生させられるステージの上に設置して3種類のインプットを生成している。

これを使うと、真っ暗でトレッドミルも動かない状態でステージだけが動くことで前庭感覚を刺激できるが、実際体が動きを感じると、視覚野神経が興奮する。それもほんの一部ではなく、25%程度の神経が活動することは、前庭の刺激が視覚野にも伝達され、視覚シグナルの調節をしていることがわかる。

実際、じっとしている状態で視覚インプットだけを変化させて起こる視覚野の神経興奮にステージを動かす刺激が加わると倍以上の神経が興奮していることがわかり、前庭からの刺激が視覚野の興奮閾値を大きく変化させていることがわかる。

一方視覚の変化にアジャストさせてトレッドミルを回し、マウスを走らせると、すなわち視覚インプットと運動感覚が合わさると、さらに2倍以上の神経が興奮する。面白いのは、このときステージを移動させても移動させなくても興奮する神経の数は変わらない。すなわち、自発的に運動している場合、前庭加速度センサーからのインプットは抑えられる。

とすると、視覚インプットと運動感覚だけがあれば移動に関する感覚は十分ということになるが、例えば視覚の変化と運動感覚の統一性がなくなるような状況、実験的には運動中に急にステージを動かす状態、そしてマウスの生活から考えると急に滑って移動速度が増したような状態、ではそのときだけ前庭からのシグナルも合わさってさらに多くの神経細胞の興奮が観察される。

この研究では視覚野への影響が研究されたが、実際には他の皮質神経でも、前庭及び運動からのインプットは神経興奮の閾値を変化させていることが示され、空間を移動する感覚が、我々の認識の基礎にあることを示している。

以上が結果だが、この研究の全ては研究装置の設計にあると思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    前庭及び運動からのインプットは神経興奮の閾値を変化させていることが示され、空間を移動する感覚が、我々の認識の基礎にあることを示している。
    imp.
    一次導関数は速度。
    二次導関数は加速度。
    三次導関数以上の感覚に対応する物理量は実在するのか?
    いつも気になる点です。

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