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3月3日 経鼻的抗CD3抗体投与で脳外傷を軽減する(2月27日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2025年3月3日
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論文を読むときどこから読むかは人それぞれだが、著者に注目しているなどの特別な例を除くと、まず全員タイトルから読み始めると思う。従って、論文を書くときはいつもいいタイトルをと心がけたし、読む側に回っても、手に取るかどうかはタイトルに影響されることが大きい。

今日紹介するハーバード大学からの論文はタイトルに惹かれる典型的な例で、2月27日 Nature Neuroscience に掲載されている。そのタイトルは「Nasal anti-CD3 monoclonal antibody ameliorates traumatic brain injury, enhances microglial phagocytosis and reduces neuroinflammation via IL-10-dependent Treg –microglia crosstalk(経鼻的に投与する抗CD3抗体はIL-10依存的Treg-ミクログリアの相互作用を介して、外傷性脳挫傷でのミクログリア貪食を促進し、神経炎症を抑える)」だ。

おわかりのように、タイトルに全てが書かれており、免疫学をかじっているものなら必ず驚く。まず、経鼻的に抗CD3抗体を投与して抑制性T細胞 (Treg) を活性化する方法に驚くし、さらに免疫疾患とはいえない普通の外傷性脳挫傷を Treg で治療するというアイデアに驚いて、論文を読み通すことになる。

初めて読むと驚くのだが、このグループは抗CD3抗体を経鼻的、あるいは経口投与して Treg を誘導する治療法の開発に長年取り組んでおり、2006年には抗CD3抗体経口投与で Treg を誘導して実験的自己免疫性脳炎を治療できることを示している。経鼻的というタイトルから、脳で Treg を直接活性化しているのかと思ったが、実際にはこの方法で全身の Treg を活性化させようと考えている。実際、2023年には Covid-19 の肺炎を抑える目的で患者さんへの抗CD3抗体経鼻的投与を行っており、一定の効果があることを示している。

では Treg 誘導は外傷性脳挫傷にも効果があるのか?多くの実験が行われており、ややこしすぎるのだが、症状に即した結果だけを見ると、損傷治療後30日目で、

  1. 抗CD3抗体を経鼻的に投与することで、行動上の脳機能障害が軽減される。
  2. MRI で認められる損傷領域が縮小する。
  3. 損傷部位のミクログリアの密度を下げる。
  4. 様々な血中マーカーで脳損傷低下、炎症の軽減が認められる。

ことを示している。一方で、損傷直後の1週目では殆ど抗CD3抗体の効果は認められないことから、慢性期損傷治癒に関わる過程に効果があることがわかる。

あとはこのグループが長年行ってきた研究に基づき、外傷性脳挫傷でも Treg が活性化することで炎症抑制が起こることを、多くの実験を使って示している。データを見ると、クリアカットではないので、この可能性を証明するのに苦労しているという印象だ。ただ、最終的に一番明確な実験は、脳挫傷のあと抗CD3抗体を投与したマウスから脾臓細胞を精製し、脳挫傷を受けた他の個体に細胞移植する実験で、抗CD3抗体処理を受けた脾臓細胞は、腹腔に注射すると脳に移行し、脳挫傷の症状を軽減させることができる。また、このとき Treg を除くとこの効果は消失する。また、IL-10 に対する抗体を投与すると、この効果は消失する。

他にも様々な実験が行われているが、この結果で言いたいことはわかる。すなわち、抗CD3抗体経鼻投与は全身の Treg を活性化できる。他の細胞より Treg への効果が強いのかは明らかにする必要があると思うが、結果オーライといえる。これは全身で起こり、Treg も脾臓中の細胞を、腹腔に注射するだけで効果があるので、脳局所の反応を誘導しているものではない。

私の印象としては、話がうますぎると警戒してしまうが、様々な疾患で臨床応用が始まっているようで、その結果を見た上で評価すればいいと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:CD3抗体処理を受けた脾臓細胞は、腹腔に注射すると脳に移行し、脳挫傷の症状を軽減させる.
    2: Treg を除くとこの効果は消失する。
    3:IL-10 に対する抗体を投与すると、この効果は消失する。
    Imp:
    CD3抗体処理を受けた脾臓細胞が脳に移行し作用を発揮するとは!

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