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3月8日 血管走行の多様性の分子機構を明らかにする(3月5日 Cell オンライン掲載論文)

2025年3月8日
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医学教育の最初は人体解剖というのが今も定番だと思うが、血管の走行に関しては、決まったパターンをとるものと個人差が大きいパターンがあることに気づく。ただ、個人差の大きいパターンに関しては、殆ど気にせず様々な条件が重なると当然起こってくる個人差だと考えていた。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、個人差だと思っていた走行の多用性も場合によってはそのメカニズムを特定することができることを示した研究で、3月5日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「CXCL12 drives natural variation in coronary artery anatomy across diverse populations(様々な人種で CXCL12 は冠状動脈走行の自然の多様性の原因となる)」だ。

タイトルにある CXCL12 は最初 SDF-1 と呼ばれており、1993年に本庶研の田代、仲野さんにより、続いて1994年に岸本研の長澤さんにより遺伝子クローニングが行われたケモカインだ。当時私たちは独自に樹立したストローマ細胞株 ST2 と東北歯科大学小玉さんの樹立したストローマ細胞株 PA6 を利用して造血を研究していたが、田代、仲野さんは ST2、長澤さんは PA6 から SDF-1 をクローニングしたので特に印象が深い。実際長澤さんらにより、ストローマ細胞造血に関わることが示されたが、その後 Cyster らによって私たちが研究していたリンパ組織の発生にも関わることが示され、常に注目してきたケモカインだ。ただ、現在では血液やリンパ組織だけでなく、血管や心臓の発生維持に関わることが明らかになり、多彩な作用があることが知られている。

この研究は心臓の裏側を支配する冠状動脈回旋枝が、左右どちらの下降枝から分岐するのかの、いわゆる血管走行の多様性を決める遺伝性調べるため、ゲノム解析二よりマッピングを行い、ヨーロッパ系、アフリカ系ともに CXCL12 の近傍の多型と強く相関することを発見する。

これまで知られている CXCL12 の多型は4種類知られており、そのうち近くに存在する3種類のノンコーディング領域の多型が走行多様性を決めると考えられる。ノンコーディング領域なので遺伝子の発現量を調節していると考えられるが、多様性で終わるような軽微な変化を捉えるのは難しい。

この研究では胎児心臓の single cell レベルのクロマチン構造を調べたデータを読み込ませた AIモデルを作成し、特定した多型がそれぞれ細胞特異的クロマチン構造変化と対応することを確認している。

その上で、心臓の胎児発生時期の CXCL12 とその受容体 CXCR4 の発現を調べ、冠状動脈発生時に CXCL12 が冠状動脈起始部の回りに発現し、CXCR4 が冠状動脈上皮に特異的に発現していることを、組織上の遺伝子発現アッセイから明らかにしている。

以上のことから、発生途上で CXCL12 の微妙な量の変化により、左右どの下降枝から動脈が伸びてくるのかが決まると想定される。とすると、CXCL12 遺伝子が半分のマウスを調べると、起始部の選択が変わるのではないかと着想し、マウスCXCL12 ノックアウト・ヘテロマウスの動脈走行を調べると、通常右下降枝から分岐するケースが多いが、CXCL12(+/-) では、両方の下降枝と大動脈から分岐するケースが多いことがわかった。

結果は以上で、致死的でない遺伝子発現の変化が我々の身体の多様性を作っていることを実感させる面白い仕事だと思う。特にノンコーディング領域の多型を調べるための方法などは、学ぶところは大きい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    通常右下降枝から分岐するケースが多いが、CXCL12(+/-) では、両方の下降枝と大動脈から分岐するケースが多い!
    Imp:
    細胞遊走に関係したケモカインらしい影響です。

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