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3月14日 膵臓ガンとMyc増幅 (3月12日 Nature オンライン掲載論文)

2025年3月14日
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ガンの多様化に様々なガン遺伝子の増幅、特に染色体外に飛びだして複製可能なユニットを形成する環状DNAがガンの多様化と悪性化を後押しして、ガンの治療を困難にしていることは何度も紹介してきた。

今日紹介するイタリアベローナ大学と英国グラスゴー大学からの論文は Myc遺伝子の増幅に焦点を当て、オルガノイドと実際の組織を比べながら、Myc増幅、特に環状DNA型の増幅の意義とダイナミックスを調べた研究で3月12日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「MYC ecDNA promotes intratumour heterogeneity and plasticity in PDAC(染色体外Mycは膵臓ガンの腫瘍内多様性と可塑性を促進する)」だ。

この研究は特に新しいというわけではないが、膵臓ガンの患者さんからガンをオルガノイド培養し、試験管内での機能実験を、保存してある実際の組織と照らし合わせる丹念な実験が行われている。

まず39例の膵臓ガン患者さんから41種類のオルガノイド培養 (POD) を樹立し、全ゲノム解析を行って、遺伝子変異を詳しく解析している。予想通り、ほぼ全ての POD で KRAS遺伝子変異が認められ、また p53変異も7割を超す。ただ、この研究では変異ではなく、遺伝子増幅に着目し、Myc、 CDK6、CCND3は全て遺伝子増幅が主要な変化であることを示している。

Myc増幅のうち染色体外DNA増幅が見られるのが4例で見つかり、この中の増幅程度の異なる2種類を選び出し、POD を詳しく検討している。染色体外DNA は増幅という点から見るとガンの悪性化を後押ししているように見えるが、実際には複製が染色体と一体化していないため、ガン細胞にとっては重荷になる。従ってガンがこのバランスをどうとっているのかが見所になる。

まず染色体外Myc増幅が見られる POD では、Myc遺伝子の数に大きなバリエーションがあることがわかる。すなわち、一方的に数が増えるというものではなく、腫瘍細胞の状況に応じて増幅程度が異なっているのがわかる。

Myc はガン増殖に必須の Wntシグナル下流にあることが知られているので、Wntシグナルの程度と増幅が関係しているのではと考え、Wntシグナルを遮断する実験を行っている。ガンの POD といえども Wintシグナルを遮断すると増殖が止まる。しかし、Wnt が遮断された条件で増殖を再開する細胞を見ると、Myc増幅が大幅に増加していることがわかる。すなわち、Wntシグナルが弱い場所では Myc を増幅させて増殖を維持している。もちろん増幅自体が問題ではなく、Myc が転写され翻訳されることが重要で、Myc をウイルスで導入して過剰発現させると、Wnt を遮断しても増幅は起こらない。

それどころか、環状Myc が減少してしまうことから、環状DNA はガンにとっては重荷であることがわかる。すなわち、Myc の発現と増幅によるコストをうまくバランスをとっていることがわかる。

この研究の面白いのは、POD での発見を組織で再確認している点で、組織上での Wntシグナルと Myc増幅を調べると、実際の組織上でも Wntシグナルが低いガンの中心部で Myc増幅が起こっていることが示されている。

以上が主な結果で、Myc 自体は Wntシグナルの補完をしていると考えていいが、環状DNA により Myc増幅が起こり始めると、増幅程度を上げたり下げたりしやすく、それ自体でガンに対するネガティブな影響はあるが、複雑なガン組織や転移の際の可塑性を高める重要な要因になっていると結論している。

いずれにせよ、Mycは標的として使えるので、ガンのアキレス腱を狙える可能性は高い。

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