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12月27日:ゲノム解析によるガンの予測(EbioMedicine誌オンライン版掲載論文)

2014年12月27日
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先日MYCODEの遺伝子診断の結果が返ってきた。気になるガンについてリスクを調べると、基底細胞癌リスクが2倍以上と高値だ。あとは、ユーイング腫瘍と、慢性リンパ性白血病が平均より高いリスクだった。この3腫瘍のうちでユーイング腫瘍は遥か昔に発生年齢を超えているし、皮膚ガンの方もまあ命に関わるほどではない。最後の慢性リンパ性白血病は私たちの世代に多い疾患なので少しは気になる。一方私自身はバレット症候群とすでに診断されているが、遺伝子診断からの食道がんリスクは正常集団に入っている。当然のことだが、ガン体質をゲノムだけから予測するのはそう簡単ではない。さらに、私のように65を越えると、生活習慣からくるエピジェネティックな影響が大きいため、遺伝子検査の意味が薄まってしまっている。とはいえ、集団の中の自分の位置がわかること、また65を超えていたとしても、リスクが高いと指摘された疾患を気にとめるようになるのは悪いことではない。次はぜひ全ゲノムを調べてみようと考えている。しかし、全ゲノムとなるとそこに何が書かれているか理解することの方が問題だ。現時点でゲノムデータからどの程度のことが言えるのか?この問題を調べたのが今日紹介するテキサス大学内科からの論文で、フリーアクセス可能なEbioMedicine誌に掲載されている。タイトルは」Whole genome sequencing for diagnosis and discovery in the cancer genetic clinic(ガン遺伝子診療部門での診断とガンの発見に全ゲノム解析は使えるか)」だ。この研究はがん細胞のゲノム解析ではなく、生まれついてのゲノムの解析からガンの危険性についてどれだけ理解できるかを確かめようとしている。研究では家族にガンの患者さんがいるので、自分のガンとの関わりを知りたいと大学のガン遺伝子相談室を訪れた患者さんのうち、乳ガンや卵巣ガンの原因となることがわかっているBRCA1.BRCA2遺伝子に突然変異のある患者さん176名、この2つの遺伝子は正常と診断されたガン患者さん82名の全ゲノム配列を決定し、現時点で遺伝子相談にどの程度使えるかを検討している。将来の外来診療というセッティングを考え、塩基配列決定や情報解析はテキサス大学で行わず、基本的に外注している。ただ、予想された通り、データが膨大すぎて結果をまとめるのは簡単でない。塩基配列は全ゲノムについて行っているが、結局この研究ではタンパク質に翻訳されるエクソーム部分に限って調べている。まずわかるのは、現在外注で得られるゲノム解析の精度はまずまずで、すでに確認されているBraca1/2の突然変異をほぼ9割完全に診断している。残りの1割についても、正確な変異の特定には失敗しているが、異常ありと判定できているので、見落としの確率は低そうだ。一方この二つの遺伝子に異常がないとされているグループでも、これまで知られていないBrca遺伝子変異が見つかる。ただ、見つかった変異が機能阻害につながるかどうかは研究が必要だ。次にアミノ酸変化を伴う突然変異となると膨大な数に上り、これまで開発された様々な解析ソフトを使っても、それぞれの意味を解析することは現時点では不可能に近い。したがって遺伝子相談で説明するには、これまでの研究でガンとの関係が明らかにされている遺伝子に解析を絞るしかないことがわかる。それでも、平均6−7個の遺伝子で変異が見つかる。そしてそれぞれの変異の持つ意味については患者さんに説明できるほど理解が進んでいない。この意味で、今後外来レベルでアラートが出るようなユーザーに優しい解析ソフトの開発が急がれる。最後に、ガンの発生には遺伝子の活性が上昇する突然変異を伴うことが多いが、活性化につながることがわかっている突然変異は限られている。一方、乳ガンを引き起こすBrca遺伝子変異は機能欠損型だが、機能の失われる突然変異は診断がつけやすい。このため、患者さんに正しい情報を伝えるという点からは、機能が失われる突然変異に絞って説明する方が良いことも示唆している。実際一人当たり2個弱の遺伝子変異については臨床的に理解可能で、指導に利用できる。他にも、ガンだけでなく他の病気に関わる変異が約10%の人に見られる。これも遺伝子相談にとっては重要なデータになる。結局、現時点で全ゲノム配列を調べても、ガンのリスクを予想するには私たちの知識が足りないことを示す結果になっているが、かといってゲノムを調べても意味がないという結果でもない中途半端な結論に終わっている。コストにもよるが、私自身は自分を知るという点でゲノムは欠かすことのないデータだと思っている。もちろんこれまでも、これからもゲノム研究は私たちの健康や病気の理解・診断・治療に役に立つ。しかし、21世紀は「役に立つ」を超えたところにゲノムを位置付けることから始めるべきだと確信している。

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