昨年の重要な科学ブレークスルーとして Science 誌が挙げたのが、HIVウイルスのカプシドを標的としてホストタンパク質との相互作用を阻害し、またカプシドのフレキシビリティーを阻害する薬剤 Lenacapavir の開発だった。ギリアドサイエンス社はウイルス征圧にまた大きな一歩を記したことになるが、エイズや肝炎ウイルスに対する薬剤の研究からわかるのは、ウイルス感染の様々な過程を標的にする薬剤開発の重要性で、これにより薬剤耐性ウイルスの出現にも対応できる治療が可能になる。
今日紹介するのはともにベルギーからの論文で、一つはルーベンカソリック大学、そしてもう一つはヤンセンファーマ研究所から独立に発表されたコロナウイルスのMタンパク質を標的とした薬剤の開発だ。同じ時期に、しかも同じベルギーでよく似た薬剤が開発されているのに驚いたが、コロナパンデミックが収束しても地道に創薬研究が行われていることは心強い。ルーベンカソリック大学からの論文のタイトルは「A coronavirus assembly inhibitor that targets the viral membrane protein(ウイルスの膜タンパクを標的としてコロナウイルスの組み立て阻害する薬剤)」、ヤンセンファーマからの論文は「A small-molecule SARS-CoV-2 inhibitor targeting the membrane protein(膜タンパクを標的とした SARS-CoV2 を抑える小分子化合物)」で、ともに3月26日 Nature にオンライン掲載された。
どちらもほぼ同じ内容なのでルーベンカトリック大学からの論文を紹介する。要するに今でも感染細胞を用いて薬剤の探索が続けられているということだが、その中でウイルス制御効果が高く、マウスレベルで副作用も少ない、しかも経口摂取可能な薬剤 CIM-834 が分離されている。この特徴は、SARS-CoV2 の様々な系統にほぼ同様の活性を持っている。
そして、マウスやハムスターの感染実験で現在用いられているファイザーのプロテアーゼ阻害剤とほぼ同等の活性を持っている。
次に薬剤の標的を調べるために、CIM-834への耐性を試験管内で誘導、耐性ウイルスの配列からこの分子がウイルスのMタンパク質を標的にしていることを明らかにしている。なかなか合理的な標的特定手法で、薬剤耐性ウイルスの出現を覚悟する必要があるが、逆に早期のモニタリングも可能にしている。
コロナウイルスはエンベロップタイプで我々の細胞膜を利用するが、Mタンパクはエンベロップウイルスが作られるときの基質となっていることが知られている。試験管内感染実験でこの薬剤を加えると、予想通りウイルス粒子が形成される最後の段階が阻害され、ウイルスの放出ができない。Mタンパクに抗体の Fc を結合させ安定化させたタンパク質を標的として CIM-834 を作用させると、Mタンパク質のショートフォームと結合して、これがロングフォームへとスイッチするのを阻害することがわかった。M-プロテインはショートフォームと、ロングフォームが対になって機能するので、これが阻害されるとウイルス粒子が形成できない。
後はタンパク質の構造解析から CIM-834 結合部位を特定している。面白いことに、この研究ではヤンセンファーマが開発した JNJ-9676 についても検討しており、変異株に対する効果や構造解析から、少し異なるサイトにそれぞれが結合していることも示している。従って、両方の薬剤はそれぞれを補完し合う可能性がある。
以上、他のコロナウイルスに関しても、Mタンパク質が標的になり得ることが明らかになり、今後のパンデミックに備える意味でも重要な研究だと思う。
一つはルーベンカソリック大学、そしてもう一つはヤンセンファーマ研究所から独立に発表された、コロナウイルスのMタンパク質を標的とした薬剤の開発!
Imp:
Mタンパク質が標的。
ヤンセンファーマ
経口IL23Rアンタゴニストも開発中!
人工アミノ酸を多く含む環状ペプチド薬だそうで。。。
icotrokinra
(icotrokinra (JNJ-2113, PN-235))
革命です