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4月7日 ボノボの構文(4月4日 Science 掲載論文)

2025年4月7日
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チンパンジーを見たことがある人は多いと思うが、ボノボを飼育している動物園は世界でも数えるほどしかなく、見るチャンスは少ない。ベルリンにはよく行くが、動物園のボノボを見るのも一つの楽しみだ。パンダなどと比べて見る人も少なく、ゆっくり見ることができる。ベルリンのボノボのなかには土にジカに座るのを嫌って、座布団を引っ張っている個体までおり、確かに知能の高さを感じさせる。

珍しいボノボを飼育している施設が日本にも一カ所存在する。京都大学野生動物研究センターの施設で、チンパンジーやボノボが余生を送っている熊本サンクチュアリーだ。公開はされていないが、施設を見せていただいたことがある。写真(6人いるボノボの一人ヨシキ30歳;サンクチュアリーでは一頭と呼ばず一人と数えている)のように本当に近くで見て感激したが、飼育に必要なコストは常に足りないようで、これを読んだ多くの人に寄付をお願いしたい(https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/kumasan/ja/members/index.html)。この研究施設では多くの研究が行われており、このブログでも2016年、類人猿に Theory of Mind が存在することを示した Science の研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/5895)。

今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は、ボノボのコミュニケーションで単語の組み合わせを調べ、ボノボの構文も非自明(non-trivial)な構造が存在することを示した研究で、4月4日 Science に掲載された。タイトルは「Extensive compositionality in the vocal system of bonobos(ボノボの発生システムの幅広い構成性を持つ)」だ。

動物のコミュニケーションを記録して、そこで使われる構成性を調べる方法の一つが Formal communicative system (FoCs) で、シグナルと行動的意味を組み合わせることで、様々な形で発せられたシグナルの構成性を、人間の言語分析のように行うことができる。鯨の歌や、コウモリの超音波など様々な分野で使われている。

野生のボノボはコンゴに生息しているが、研究ではボノボ保護地域で400時間ボノボの声を拾うとともに、そのときの発声者と他の個体との行動をナレーションとしてテープに保存し、これを元にボノボの発声する言葉の言語意味空間の分布を作成している。人間の言葉と異なり、ボノボには7種類の発声型が存在し、これらを単独、あるいは2種類を組み合わせてコミュニケーションに使っているのがわかる。

使われているコンテクストに基づいて、言語意味空間にそれぞれを分布させると、コンテクストが近いほどそれぞれの組み合わせは近くに分布することになる。これはGPTのような大規模言語モデルでの単語のトークンを多次元空間に分布させるのと同じだが、ずっと単純で、意味づけは人間の記述を元に行われている。

このとき、2種類の単語がランダムに組み合わせられることが多いが、このなかにはっきりと組み合わせにより新しい意味が発声する場合があることがわかった。すなわち、この場合それぞれの単語単独のコンテクストとはかなり離れたコンテクストが含まれるため、多次元空間分布での位置が離れる。例えば興奮を意味する言葉と自分に注意を引きつける言葉が組み合わさると、他の個体の攻撃的表示を制止する意味に変化する。

このように明確に意味の変わる組み合わせを探していくと、4種類の組み合わせが発見でき、そのうち3種類は自明的構成(trivial composition)、すなわち単語の並びの複雑さが低いケースが3種類、そして人間特有ではないかと言われてきた非自明的 (non-trivial) 構成が1種類発見された。

Trivial と Non-trivial を説明するのは難しいが、著者らは「金髪と踊り子」の組み合わせは、踊り子が同時に子供だったとしても「金髪子供」という意味を持てるのを trivial と説明し、「下手な踊り子」では踊りが下手でも英語がうまいことはあるので意味が限定される non-trivial の例としている。そしてボノボでは non-trivial の組み合わせが皆で移動する呼びかけとして「私と一緒に」が使われているとしている。

以上が結果で、脳科学的には全くわからないが、単語の組み合わせの構成性に新しいコミュニケーション能力が見られるとしているが、他の動物での研究も知る必要があるだろう。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:明確に意味の変わる組み合わせを探していくと、4種類の組み合わせが発見でき、そのうち3種類は単語の並びの複雑さが低いケースが3種類
    2:そして人間特有ではないかと言われてきた非自明的(non-trivial)構成が1種類発見
    Imp:
    意味の創発

    考えてみると不思議な現象です。

    単なる記号列のプログラミング言語で、
    命が宿っていないと考えられているコンピューターが指示道理に動くのか?

    など。。。

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