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4月20日 急性骨髄性白血病の分化誘導治療(4月16日 Nature オンライン掲載論文)

2025年4月20日
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昨日に続いて、クローン性増殖から骨髄性白血病までの経路に関する論文を紹介する。今日紹介するオックスフォード大学からの論文は急性骨髄性白血病の分化を誘導して治療する方法の開発だが、昨日紹介したDNMT3a 変異によるクローン性増殖と繋がっている。タイトルは「Perturbing LSD1 and WNT rewires transcription to synergistically induce AML differentiation(LSD1とWnt経路の操作により急性骨髄性白血病の転写をプログラムし直して分化を誘導できる)」で、4月16日 Nature にオンライン掲載された。

白血病は分化能が抑えられた未熟細胞の増殖を特徴とするので、分化を誘導して治療することが試みられた。古くは京都大学ウイルス研教授だった市川先生がその後 CSF-1と呼ばれる分化因子を特定した1967年から始まる。そして最も成功したのがPML-RARα 転座を持つAPLの All trans retinoic acid 治療で、PMLの分解を促進する arsenic trioxide と組み合わせて白血病の治癒を可能にしている。

未熟幹細胞ブラストの増殖が特徴の急性骨髄性白血病 (AML) でも分化誘導治療は試みられてきた。若い人の場合骨髄移植が選ばれるが、高齢者になるとこれは難しいので、分化誘導治療は魅力的だ。現在行われているDNAメチル化阻害剤とBcl2阻害剤の組み合わせもこの中に入るのかもしれない。

この研究ではDNAメチル化阻害ではなく、ヒストンメチル化に関わるLSD1の阻害剤を軸に分化療法の開発を目指した。これまでの研究でもLSD1阻害剤がAMLの分化を誘導することが知られているが、これがAMLを抑えるまでには至っていない。そこで、LSD1阻害剤存在下で、さらにAMLの分化を誘導し増殖を抑える分子を探索し、最終的にWntシグナルに関わるβカテニンの安定化を促進するGSK阻害剤が強い活性を持つことを発見する。

さらに、AML白血病細胞を移植する実験系でLSD1阻害剤とGSK阻害剤を組み合わせると、白血病の増殖を抑え、マウスの生存を延長すること、そして投与により細胞が分化してCd11マクロファージマーカーを発現することを確認する。

次にメカニズムについて Atac-seq を用いたクロマチンレベルの解析を含む遺伝子発現解析を行い、LSD1阻害で発現してきた IRF7が安定化したβカテニンと強調して様々な遺伝子調節に介入することが、細胞の分化誘導に繋がることを発見する。

中でも、インターフェロンシグナルに関わるSTAT1の転写を誘導することが発見旧聞か誘導の大きな要因であることを特定している。ただ、他の分子の転写調節の変化もこの効果を後押ししていると考えられる。

最後に、患者さんから単離したAMLに対する効果を調べている。面白いことに、昨日紹介したDNMT3aの変異を持つ患者さん(調べたAMLのほぼ半数)ではこの治療法は効果を示すが、変異がないが場合はほとんど効かないことがわかった。また、この研究で特定されたインターフェロン、Wntシグナルがこの治療で最も影響を受けることも確認している。

以上が結果で、現在の治療に加えて新しい分化治療法の開発は、高齢者に見られるAML治療に最も大きな進歩だと思う。さらに、その効果がDNMT3a 変異AMLで最も強く見られることは、クローン性増殖とAMLをつなぐ大きなヒントになると期待している。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ヒストンメチル化に関わるLSD1の阻害剤を軸に分化療法の開発を目指した。
    AMLの分化を誘導し増殖を抑える分子を探索し、Wntシグナルに関わるβカテニンの安定化を促進するGSK阻害剤が強い活性を持つことを発見する。
    Imp:
    AMLの分化誘導治療開発
    R/R-AML治療開発も含め開発競争が熱い領域のようです。

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