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5月15日 CAR-T治療に伴う認知機能低下の原因を探る(5月12日 Cell オンライン掲載論文)

2025年5月15日
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CAR-T治療は現在脳のグリオーマにも使われるようになり、脳内でのサイトカインストーム、炎症を誘導する可能性が懸念されている。また、白血病のように脳以外の腫瘍に対するCAR-T治療でも、副作用として注意障害などの脳症状が現れることも報告されている。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、CAR-T治療に伴う神経系への副作用の原因を探り、治療法の開発を目指した研究で、5月12日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Immunotherapy-related cognitive impairment after CAR T cell therapy in mice(マウスでCAR-T治療後に発生する免疫治療関連性認知障害)」」だ。

脳腫瘍以外でもCAR-T治療で認知障害が発生することをあまり気にしたことがなかったので、タイトルを見てすぐ興味を引かれた。ただ、それなりの研究で治療の糸口は示しているが、読んだ後私の頭の霧が晴れるとまでは行かない論文だった。

研究では人間の腫瘍をNKを含む全ての免疫系の存在しないマウスに移植。腫瘍が定着してからガンに対するCAR-Tを注射して、移植ガンに対する治療効果を見た後で、ものに対する記憶と迷路記憶テストで認知機能を治療後1ヶ月目に測定している。

結果は腫瘍の場所を問わず、CAR-Tによる治療効果が得られた後、全てのマウスで認知機能低下が見られている。しかし、CAR-Tの治療効果が高くガンが急速に縮小するケースでは認知機能低下は認められない。即ち、ガンに対するCAR-Tの反応が比較的慢性に続くときだけ認知機能が発生する。残念ながら認知機能誘導時のメカニズムはこれ以上解析が行われていない。CAR-Tが反応して、比較的長い間炎症反応が起こることが引き金になると決めてしまっている。

後は、認知機能異常が発生する原因を、全身炎症により誘導された脳内炎症という観点から検討している。まず脳脊髄液中のサイトカインやケモカインのいくつかが治療後上昇する。これと相関して、白質に存在するミクログリアの活性化が認められ、この結果神経のミエリンを形成するオリゴデンドロサイトの数が減少することを突き止める。

この症状は多発性硬化症などの自己免疫疾患で見られるが、グリア細胞の遺伝子発現を調べるとCAR-Tでもほぼ同じような変化が見られることから、ミクログリア活性化、オリゴデンドロサイト低下、神経の白質障害というプロセスが、認知機能低下の背景にあることがわかる。

人間の脳腫瘍でCAR-T治療を受けた患者さんについてもsingle cell RNAseqを用いた解析を行い、同じようにミクログリアの活性化と、オリゴデンドロサイトの機能異常が見られることも確認しており、脳腫瘍ではマウスと同じような過程がCAR-Tにより誘導されることを明らかにしている。

最後に、治療戦略を探るために、まず全身炎症により誘導されるミクログリアの活性化が異常の原因であることを確認するため、CSF-1阻害剤によるミクログリアの脳内からの除去効果を調べ、ミクログリアを除去すると白質異常、そして認知機能低下を抑制できることを示している。

最後に全身炎症によるミクログリア活性化を誘導する可能性があるサイトカインやケモカインを調べ、最終的にミクログリアが発現しているケモカイン受容体の一つCCR3を抑制すると認知機能低下を防ぐことができることを示している。

結果は以上で、メカニズム解明という面ではなんとなくフラストレーションの残る研究で、Cell誌も甘いなと言う気がする。ただ、CAR-Tによる認知機能は、例えばCovid-19などによるBrain Fogのモデルにもなり得るとすると、CCR3やCSF-1阻害で認知機能を抑えることを示し、全身炎症に続く脳炎症治療の糸口になるかもしれない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ミクログリア活性化、オリゴデンドロサイト低下、神経の白質障害というプロセスが、認知機能低下の背景にある!
    Imp:
    ミクログリアの活性化が異常の原因!
    全身炎症後の認知機能低下機序の一端が解明さる!

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