1mを超す大きさを持つ神経細胞では、細胞本体から離れた局所で、その場所に必要なタンパク質の翻訳を行う複雑な仕組みが存在している。この仕組みが傷害される例としては軸索に沿って翻訳のための材料を輸送し局所翻訳に関わる分子TDP-43やFUSの異常によるALSなどがある。
また、長い神経細胞が末端で障害を受けたときにも局所翻訳は必須で、今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所とエストニア・タリン研究所からの論文は、この過程になんとトランスポゾンの一つがmRNA輸送システムを用いて末端に輸送され、翻訳促進に関わることを示した研究で、5月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Repeat-element RNAs integrate a neuronal growth circuit(神経増殖回路を繰り返し配列由来RNAが統合する)」だ。
この研究ではトランスポゾンのなかのB2-SINEの一部がアデニル化を受けて軸索を輸送され、神経損傷治癒に関わるとするこれまでの研究に着目し、そのメカニズムを詳しく解析している。
まず損傷を受けた後、根神経でBe-SINEの転写が72時間をピークに上昇することを確認している。これはB2-SINE特異的で、他のトランスポゾンでは損傷では誘導されない。そして、眼球にB2-SINEをAAVベクターで導入して視神経の損傷治癒を観察すると、B2-SINEを導入した神経では明らかに再生が上昇しており、ノンコーディング・トランスポゾンが神経再生を促進することがわかった。
神経損傷でB2-SINEが誘導されるのは、末端の損傷シグナルにより活性化されるAP-1転写因子の作用であることを確認したあと、数あるB2-SINEのなかで損傷で誘導され、アデニル化されて末梢へ輸送されるサブセットを探索し、最終的に特異的な配列を持つ神経損傷治癒に関わるB2-SINEを特定しBI-SINEと名付けている。
最後にBI-SINEが神経損傷を促進するメカニズムを明らかにするため、細胞質内でBI-SINEに結合する分子を探索し、BI-SINEがRNA結合タンパク質ヌクレオリン溶け都合して、ヌクレオリンがリボゾームにmRNAをロードするのを促進することで、翻訳活性が上昇し、局所の修復を促進することを明らかにしている。
結果は以上で、トランスポゾンの一つが、末梢神経特異的に働くようオーガナイズされているのを知ると感激する。すなわち、B2-SINEは神経損傷とは無関係に我々のゲノムで増殖を繰り返したと思うが、その中のおそらく一つがヌクレオリンに結合して翻訳を促進できる機能を獲得したあと、損傷で誘導されるプロモーターとリンクしたトランスポゾンに生まれ変わり、現在も増大し続けていると考えると感心してしまう。今後、再生能力の高い動物と比べることで最も白い話が出てくるかもしれない。
もちろん、BI-SINEそのものも末梢神経誘導因子として臨床応用することも可能だと思う。
1.B2-SINEは神経損傷とは無関係に我々のゲノムで増殖を繰り返した!
2.その中のおそらく一つがヌクレオリンに結合して翻訳を促進できる機能を獲得した
3.損傷で誘導されるプロモーターとリンクしたトランスポゾンに生まれ変わり、現在も増大し続けている.
imp.
偶然が必然に変わる!
進化!