AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月23日 システイン欠乏によるドラマチックダイエット(5月21日 Nature オンライン掲載論文)

5月23日 システイン欠乏によるドラマチックダイエット(5月21日 Nature オンライン掲載論文)

2025年5月23日
SNSシェア

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はシステイン欠損を数日続けるだけで身体の脂肪をほとんど燃やすことができることを示した驚くべき研究で、5月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Unravelling cysteine-deficiency-associated rapid weight loss(システイン欠損による急速な体重減少を明らかにする)」だ。

システインはメチオニンとともに硫黄を含むアミノ酸で、タンパク質に取り込まれるとSS結合を通して高次構造を決める重要なアミノ酸として働く。ただシステインはタンパク質の構成要素として働くだけでなく、グルタチオンへと変化して酸化ストレスを抑える。さらには様々な細胞毒の解毒作用も持っている。その上に、分解により生じる硫化水素は細胞のエネルギー代謝調節に重要であることもわかっている。このような多様な機能から、現在ガンの代謝プログラムとの関わりでシステインが盛んに研究されている。

このようにシステインが細胞代謝に重要だとわかっていても、システインが欠損すると数日で体重が3割減るとは誰も想像できなかったと思う。必須アミノ酸やシステインが欠損した状態を詳しく調べる途中で、体内でシステイン合成ができないように合成酵素を欠損させたマウスにシステインフリー食を与えて、完全にシステインの供給を絶つ実験を行っている。

他の必須アミノ酸を欠損させた場合でも急速に体重が減る。これはintegrative stress response (ISR) が誘導され、翻訳が低下するとともに、FGF21やGDF15が上昇して代謝を変化させる結果であることがわかっている。ただ、システインを完全に遮断した場合はこれを遙かに超える体重減少が見られ、1週間でなんと体重が3割低下する。

組織学的に調べると、なんと脂肪組織から脂肪が消える。これは決して脂肪細胞が失われたわけではなく、脂肪が消費される結果であることがわかる。この間マウスは飢えでぐったりするといった症状を示すことは全くなく、正常と同じレベルの活動性を維持している。ただ、酸素呼吸は少し低下する。

脂肪組織を詳しく調べると、白色脂肪組織で脂肪を熱に変えるUCP1を発現した褐色脂肪組織への転換が進み、その結果代謝に脂肪が使われ、また多くは熱として放出された結果、これほど急速な脂肪組織減少が可能になっている。

あとは、肝臓、筋肉、脂肪組織などの遺伝子発現を調べ、この変化の原因を探っている。通常の必須アミノ酸欠損で起こるISRが起こっていることは確認されるが、これに加えて酸化ストレス反応 (OSR) が加わっていることがわかる。これはシステインがグルタチオン合成に必須であるためで、これが低下して酸化ストレスが上昇している。

この2種類のストレスが揃う結果、脂肪やコレステロールの合成が低下し、逆に分解が上昇する。

これがISRとOSRが揃う結果であることを確認するため、必須アミノ酸を欠損させISRを誘導するとともに、グルタチオンの合成を止める化合物を加えると、システインが存在しても同じような効果が見られる。余談になるが、システインの体内での合成を止めることは難しいので、この戦略は短期であれば体重減少治療として使える可能性はある。

ただ、システイン遮断効果は、ISR+OSRよりさらに強いので、システイン遮断独自の要因もあると探索し、エネルギー代謝の中心にあるCoAの濃度が、システイン遮断特異的に低下することで、より強く脂肪依存性のエネルギー代謝へのシフトが起こることを示している。

以上が結果で、理屈よりもともかくその効果に驚く。元々硫黄を含むメチオニンやシステインを制限することで長生きするという話がある。システインは酸化ストレス抑制には必要だが、硫化水素を合成して毒性を発揮するので、このバランスをあまり狂わせるとかえって短命に繋がると思っていたが、今日の論文を読んでシステインにはまだまだ知らない秘密があることがよくわかった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    システインが欠損すると数日で体重が3割減るとは誰も想像できなかったと思う。
    Imp:
    マンジャロを超える、抗肥満治療になるか?!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。