6月4日 Nature にオンライン掲載された論文の中に、機械的刺激による脳脊髄液流回復、および塞栓除去による血流再開というトランスレーショナル研究が掲載されていたのでまとめて紹介することにした
最初の論文は韓国生物科学研究所 (KAIST) からの論文で、独自に特定した脳脊髄液灌流システムを刺激して脳脊髄液のクリアランスを高める方法の開発研究だ。タイトルは「Increased CSF drainage by non-invasive manipulation of cervical lymphatics(頸部リンパ節を非観血的に操作することで脳脊髄液の灌流を高められる)」だ。
この研究は血管生物学のトップサイエンティストの一人 Koh さんの研究室からで、2019年 (Nature, Vol 572, 62) 、2024年(Nature, vol 625, 768)と Koh さんたちが独自に特定してきた脳脊髄液がリンパ管へと灌流する流路についての研究の続きになる。Glymphatics は最近の大きなトピックスだが、Koh さんたちの仕事は最終的にリンパ管へとドレーンされる経路を明らかにした点が高く評価されている。
この研究でも、脳室に蛍光デキストランを注入してそれが Prox1 でラベルされたリンパ管を通って流出する経路を追跡するオーソドックスな手法で、それぞれの流れを特に所属リンパ節との関係で明らかにしたあと、頸部リンパ節を通って半分以上の脳脊髄液が流れること、このときリンパ管の平滑筋による運動が便とともに重要な役割を演じることを確認している。
次に、高齢マウスではリンパ管でのNOSシグナルが低下することで、脳脊髄液の流量が30%低下することを発見する。そして、ここからが発想豊かなハイライトだが、ドレーンするリンパ管が存在する目の周り、鼻の側面、そして頸部を1秒間隔で刺激(ほとんど指圧といった感じ)する機械を開発し、これを30分続ける実験を行い、見事にリンパ流とともに脳脊髄液の流量を高められることを発見している。要するに指圧でリンパ流を戻すという伝統的発想に基づいており、さすが Koh さんならではのアイデアだと感心した。老化だけで無く、アルツハイマー病など様々な疾患で脳脊髄液のドレーンを高める必要が認識されているので、人間でも是非試してほしい。
次はスタンフォード大学からの論文で血管内に流れを発生させて血栓を小さくまとめてから除去する方法の開発だ。タイトルは「Milli-spinner thrombectomy(ミリスピナー血栓除去)」だ。
脳塞栓などは血栓を溶かすTPAのおかげで、発作5時間がたっていなければ治療が可能になってきたが、大きな血栓となると溶かすのは簡単でない。そこで、バイパスを設置したり、カテーテルを挿入して血栓を外科的に剥がしとる方法で治療される。カテーテルを用いる方法は、今でも様々な危険性を伴うので、熟練が必要になる。
この研究グループは、血管内で一種の渦を発生させて血栓をコンパクトにまめることができると、それを吸引除去できるのではと着想し、カテーテルの先にヒレのような突起と、その間には長方形の隙間を入れることで、血栓を外側から圧迫してカテーテルの方向へまとめる力が発生することを確認している。
あとは、この方法で対応できる血栓の種類や、除去までにかかる時間などをモデル実験系で確認したあと、除去が比較的難しい赤血球が30%ぐらい混じった固い血栓を、最初はモデル血管実験系、そして最後はブタの腎動脈、及び外頸動脈に血栓を発生させた動物モデルを用いて、この方法で2分ほどで血栓が除去できることを示している。これだとすぐに人間の治験が可能だとは思うが、先行技術がある以上、どの患者さんから始めるかの選択はかなり難しい気がする。
ドレーンするリンパ管が存在する目の周り、鼻の側面、そして頸部を1秒間隔で刺激(ほとんど指圧)する機械を開発
これを30分続ける実験を行い、見事にリンパ流とともに脳脊髄液の流量を高めた!
imp:
指圧だけで流れが改善!
東洋医学的!