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6月9日 いつか角のあるサイは見られなくなる:悲しい動物保護策(6月5日号 Science 掲載論文)

2025年6月9日
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ゴリラも含めてほとんどの大型野生動物は見ているが、サイだけは近くで見たことがない。写真は神戸理研時代のスタッフの一人Tim Schroederが撮影したものだが、いつもこの写真を見ながら、彼をうらやましく思っていた。

このみごとな角こそサイのシンボルで、おそらく野生では彼らを守る重要な役割を持っているのだが、この角が漢方薬として解熱や鼻血に利用されていることから、角だけを求める密猟が絶えず、サイを絶滅の危機にさらしている。調べてみると、サイの角の最大の集積地はベトナムらしく、ここから中国やタイへと取引が行われるようだ。

今日紹介する南アフリカ・ネルソンマンデラ大学からの論文は、サイを絶滅から守る切り札として、敢えて角だけを切り取ってしまう方法が有効であることを示した研究で、6月5日号の Science に掲載された。タイトルは「Dehorning reduces rhino poaching(角を切断することでサイの密猟を減らせる)」だ。

この研究は南アフリカ有数のサファリフィールド、クルーガー国立公園で行われた。というのもサイが住む他の地域と比べてクルーガー国立公園では急速にサイの個体数が減っており、2017年と比べると2022年では半数以下に低下していたからだ。

これまではレンジャーやカメラによる取り締まりの強化、厳罰化などで対応し、南アフリカで約100億円近いお金がこれに費やされていたが、効果は限られていた。そこで、苦肉の策として「身を切る改革」ではないが、密猟者が狙っている「角を切る」ことで、サイを守れないか調べたのがこの研究だ。

この目的で、クルーガー全体で短い期間にできるだけ多くのサイの角を切断し(18ヶ月の間にほぼ半数のサイの角を切り取っている)、その間の密猟数をクルーガーの8つの地域で追跡している。

結果は期待通りで、元々生息数の少ない地域では密猟が激減している。一方、生息数が多く密猟コストが少ない地域では、密猟を半分ぐらいにしか抑える効果がなく、残った角のためでも密猟することがわかった。

いずれにせよ、ほとんどの地域で効果は急速にはっきりと確認できたことは、この方法の有効性が示されたと結論している。

もちろん生物学的な問題はあると思うが、サイを守るという点ではこの取り組みを広げて、密猟コストを上げる方策を政府も採用する可能性はある。密猟者を見つけて罰するより、サイを見つけて角を切る方がコストも1/6で済むようだ。とすると、もはや写真のようなサイをアフリカで見ることはなくなるかもしれない。

それより、ベトナム、タイ、中国と言ったトレードの根元を取り締まる一方、アフリカでの貧富の差を減少させることが重要だと思う。この現状をもう一度世界に突きつける意味で、この論文の価値は大きい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    密猟者を見つけて罰するより、サイを見つけて角を切る方がコストも1/6で済むようだ!
    imp.
    逆転の発想!

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