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1月8日:I am the Berlin Patient(AIDS research and human retrovirus誌掲載コメンタリー)

2015年1月8日
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メカニズムの異なるAIDSに対する幾つかの薬剤が開発されて以来、多剤併用によるAIDSウィルス増殖の抑制が可能になった。このおかげで、AIDSは不治の病でなくなったが、ではインフルエンザのように根治できるか、即ち薬剤の服用が必要なくなるか?というと、決してそうではない。このため、患者さんは薬の服用を一生続けなければならないという精神的・経済的負担から逃れることができない。とはいえ、いく筋かの希望の光が存在する。すなわち、AIDSウィルスが完全に消えた患者さんが世界には存在する。これまでベルリンに2人、ミシシッピ・ベイビーとして知られていたアメリカの患者1人が根治ケースとして考えられてきた。この中で、感染後早期に集中的治療を行ったケースは、根治につながる薬剤治療が可能ではないかと期待をもたせたが、ミシシッピ・ベイビー、ベルリンの患者もAIDSウィルスが再出現、あるいは低いレベルで残っていることがわかっている。これに対し、AIDS治療の途中で急性骨髄性白血病を発症し、その治療としてAIDSウィルスの侵入口であるCCR5に突然変異があるためウィルスが細胞に侵入できないドナーからの骨髄移植を2回にわたって受けた患者さんは、現在のところAIDSが根治した最初の例として知られている(N Engl J Med 360:692, 2009)。この結果は、遺伝子改変した幹細胞移植が将来の根治治療のために切り札になる可能性を示しており、現在急速に方法の開発が行われている。この患者さんは自分がTimothy Ray Brownであると名を名乗り、新聞やテレビのインタビューにも答えていたが、1月号のAIDS research and human retrovirus誌に自ら体験談を寄稿した。タイトルは「 I am the Berlin patient: A personal reflection (私がベルリンの患者です:個人的回想)」だ。内容はこれまで論文で報告されていたことと変わらない。この回想録により、ベルリンの患者が、ドイツの大学で学んでいたアメリカ人で、10年間AZTとタンパク分解阻害剤で普通に生活していたところ、白血病を発症したこと、そして3ラウンドの化学療法の後、たまたまCCR5の突然変異を持っている骨髄ドナーから移植を受けたこと、白血病が再発し、ベルリンで同じドナーから骨髄移植治療を受け、最後にベルリンの患者と呼ばれるより名前を明かそうと決めたこと、名前を明かした後様々な取材を受けたことなどが淡々と描かれている。最後に、2012年からTimothy Brown財団を設立し、根治に向けて活動を開始していることを書き添えてこのコメンタリーは終わっている。それだけのことだが、患者さんが語ること自体が重要だ。21世紀は客観的記述と主観的記述が同時に行われることで新しい可能性が生まれる時代だと私は密かに期待している。特に患者さんたちからの主観的記述が集まることは重要だ。ベルリンの患者がTimothy Brownに変わることがもっともっとわが国でも広まることを期待したい。

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