AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 1月12日:耐性のない抗生物質(Natureオンライン版掲載論文)

1月12日:耐性のない抗生物質(Natureオンライン版掲載論文)

2015年1月12日
SNSシェア

医学の勝利の一つの例がフレミングによるペニシリンの発見と、フローリー、チェインによるペニシリンの単離であることは間違いがない。しかし抗生剤の使用には必ず耐性菌の出現がつきものだ。これに対応するため、新しい抗生剤が開発されるが、耐性菌の出現から解放されることはなかった。結果、MRSAや薬剤耐性の結核菌など、勝利したと思っていた細菌がより強力になって医療現場の問題になっている。今日紹介するボストンのノボビオティックという製薬会社と、ノースイースタン大学からの論文は全く新しい抗生剤の探索の仕方と、それによって発見された耐性が出ないと考えられる抗生剤トキソバクチンについての論文で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルはズバリ「A new antibiotic kills pathogens without detectable resistance(耐性の出現のない抗生物質)」だ。しかしこれまでも耐性の出にくいという抗生剤の話はいくらもあった。ほんとかなと読み進むうち、もともと説得されやすい私はすっかり説得された。まず土の中から抗生剤を探す方法が新しい。ペニシリンを始め多くの薬剤が土壌の中に住む細菌から発見され、抗生剤の宝庫であることはわかっているのに、実際には土壌から菌を分離することが難しい。メタゲノムという方法で、土壌中の細菌の種類がわかるようになり、ほとんどの菌は培養で分離できないことがわかった。この問題を解決するため、このグループは全く新しい土壌の中で細菌クローンを培養する技術を開発する。実際には半透膜で隔たれた、多くの小さなウェルを持つチェンバーの中に、土壌中の細菌クローンを撒いて、チェンバーごと土壌の中に戻して細菌を増やしている。単純なアイデアだが、これによってなんと土壌中の5割の細菌が増えてくるようだ。次に細菌を含むチェンバー全体の上に抗生剤を発見したい細菌が一様に分布したシートをかぶせ、細菌が死んでいるのが見つかったウェルから細菌を単離し、抗生剤を開発するという技術だ。詳細は省くが、この方法で現在の医療が対策に困っている緑色ぶどう球菌を殺すトキシバクチンというアミノ酸が連なった構造が、これまで全く知られていなかった新しい細菌から作られていることを発見した。このペプチドをリボゾームなしで合成する経路も特定している。驚くことに、トキソバクチンはぶどう球菌を始め、今病院が対策に困っている細菌を殺してくれる。その効率も、現在市場に出回っている抗生剤よりはるかに高い。また、マウスを使ったテストでも、バンコマイシンのように副作用がなく、抗菌作用は高い。さらに、様々な細菌の培養を用いて調べても耐性菌が出現しない。なぜこんな素晴らしい性質があるのかを追求していくとバンコマイシンと知られる抗生剤と同じように、細菌の細胞壁を作る原料に結合して合成を阻害することで細菌を殺すことがわかった。さらにバンコマイシンの耐性菌が使っている細胞壁原料にも結合して殺すことも確認している。この阻害過程の解析から、原理的にまず耐性は出ないと結論している。説得力のある期待できる論文で、おそらく早期に臨床治験に持っていけるだろう。ただ、リボゾームを介さずトキシバクチンのような分子を合成する経路を開発するのが細菌だ。バンコマイシンも出た当時は耐性の出ない抗生物質が売りだった。まだまだ戦いは続くかもしれない。ただ、これが正しければ当分は多くの患者さんが救われ、院内感染で病院長が頭をさげるシーンが減ることは確かだと思った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.