先日紹介したリチウムによるアルツハイマー病進行予防の研究からもわかるように、アミロイドプラークや Tau線維の蓄積が起こり、それが細胞死へと繋がるためには、様々な細胞内過程が関与しており、これらを正常化することもアルツハイマー病治療の重要な標的になる。その典型的例が昨年6月に紹介した細胞膜直下のセプシン6を中心とする細胞骨格が壊れると、細胞内のカルシウム濃度が維持できなくなり、神経異常が起こりアルツハイマー病の進行を推進するという論文だ(https://aasj.jp/news/watch/24592)。 このように神経細胞の細胞骨格は軸索構造の維持からシナプスのリモデリング、そしてシグナル伝達系の維持といった様々活動を支えている。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、神経軸索の膜に結合したアクチンリングを基盤とした周期的細胞骨格のダイナミズムと機能について調べた神経形態学のプロの研究で、8月7日 Science に掲載された。タイトルは「The membrane skeleton is constitutively remodeled in neurons by calcium signaling(神経の細胞膜骨格はカルシウムシグナルによりコンスタントにリモデルされている)」だ。
この研究の対象になった周期的膜骨格は、細胞膜直下に存在するアクチンフィラメントとスペクトリンが規則的な間隔で並んでいる特殊な細胞骨格で、単純な構造的支持だけでなく、軸索の様々な活性に関わると考えられ、当然神経変性性疾患理解にも重要だが、まだまだ研究が必要だ。
そこでこの研究ではこの構造のダイナミックな変化をまず見ることから始めている。周期的膜骨格 (MPS) でアクチンとともに周期的に分布しているスペクトリンを蛍光ラベルして超高解像度顕微鏡で一定間隔で MPS を観察すると、スペクトリンの蛍光はゆっくりと消えたり現れたりを繰り返す。即ち定常状態でも MPS はゆっくりと壊され再構成されている。
MPS の変化を誘導しているシグナルについて、様々な阻害剤を用いて検討し、カルシウムをキレートしたときに変化が完全にストップし、また局所的にカルシウムが流出するケージに入ったカルシウムを用いて局所のカルシウムを高めると、変化が推進することがわかった。即ち、この変化を誘導しているのは細胞質内のカルシウムに依存していることがわかる。
そこで、カルシウム依存的に細胞骨格を調節している分子の阻害剤を用いて、この変化に直接関わる分子を探索すると、1)PKC、カルモデュリン、そしてカルパインの3種類のカルシウム依存性酵素が変化に関わること、2)PKC はアクチンリングに存在してアクチンの長さを安定化させている adducin に働き、スペクトリン・アクチンとの結合性を調節していること、2)カルパインはスペクトリンの分解を調節して MPS の変化に関わることを明らかにしている。実際には詳細な実験が行われているが、カルシウムによって活性が変化する酵素により、MPS の構造と動態が調節されているとまとめておく。
では、このようなダイナミズムを維持することの生物学的意義は何か?この問いについても、見ることに徹して探索を進め、蛍光LDL の取り込みが MPS のダイナミズムがなくなると消失することを発見する。即ち、MPS が壊れたり再構築することが軸索膜でのエンドサイトーシスを促していることを明らかにしている。
結果は以上で、もちろん MPS ダイナミズムは他の細胞機能にも関わると思うが、構造をしっかりと見ることが可能になり、研究は進むと思う。もちろんアルツハイマー病でも何らかの変化が見られる可能性はある。このように、神経細胞内では様々な過程が同時進行し、また相互に絡み合っている。従って、これらをもう一度見直すことで神経変性疾患といえども制御する可能性が生まれると思う。
MPS が壊れたり再構築することが軸索膜でのエンドサイトーシスを促していることを明らかにした!
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周期的細胞骨格がエンドサイトースと関連するとは!