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8月22日 ガンが神経に浸潤するとガン免疫が低下する(8月20日 Nature オンライン掲載論文)

2025年8月22日
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外耳道にできる扁平上皮ガンで顔面神経麻痺が起こると予後が悪いことが知られており、ガンの神経浸潤はガンの増殖を助けるのではと考えられていた。

今日紹介するテキサス MDアンダーソン ガンセンターからの論文は、ガンの神経浸潤はガン免疫反応を抑えることが、神経浸潤がガンの予後を悪くする一つの要因であることを明らかにした研究で、8月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cancer-induced nerve injury promotes resistance to anti-PD-1 therapy(ガンによる神経障害は抗 PD-1 治療抵抗性を促進する)」だ。

この研究は臨床研究から始まっている。手術前に抗PD-1抗体を投与したあとガン組織を切除するネオアジュバント治療を受けた患者さんを対象に、PD-1抗体が効いた患者と効かなかった患者さんの組織を詳しく調べ、ガンが神経を巻き込んで神経の損傷反応が高まっている組織はPD-1抗体の効果が無いことを発見する。データベースを調べて、この傾向はメラノーマや胃ガンでも見られることも確認している。

この結果をベースにマウス実験に移り、ガンを移植する前に局所の神経を除去しておくと、PD-1抗体治療の効果が高まることを明らかにしている。もしガン組織を支配する神経が特定できれば、元で切断すれば神経障害は残るが、ガンの免疫療法効果を高められる事は臨床的にも重要だと思う。

あとはメカニズムを調べており、現象論的にはガンの神経浸潤により脱ミエリン化が起こり、これが炎症を誘導していることを明らかにする。そして、この時、ガン免疫を抑制側に引っ張るマクロファージの浸潤が高まり、キラー細胞が疲弊することがPD-1抗体抵抗性が発生する原因であることを突き止める。

ガンの浸潤により障害を受けた神経の遺伝子発現から、強く障害に対する反応をコントロールする遺伝子の発現が見られ、これが炎症を誘導していることが考えられる。そこでこの損傷反応に化関わるAtf3遺伝子を神経でノックアウトしたマウスを作成し、これに腫瘍を移植すると、Atf3ノックアウトだけで腫瘍の増殖が抑えられる。そして、損傷に対する神経の反応がガン免疫の抑制的環境を作っていることを明らかにしている。

最後にガン免疫抑制的環境を作っている炎症性サイトカインを探索し、インターフェロンや炎症誘導性のSTINGシグナルよりはIL-6の関与が強いことを示している。即ち、神経浸潤のある場合PD-1抗体とともにIL-6に対する抗体を投与すると抑制効果が高まると結論している。ただ、実際のデータで見ると効果は神経を除去したりAtf3をノックアウトしたときよりは遙かに低く、IL-6を決め手として治療標的と決めるのはまだ早いと思う。

以上、神経浸潤がこれほどのガン免疫抑制効果があるというのに本当に驚いた。症例によって神経切除は選択肢になる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    PD-1抗体が効いた患者と効かなかった患者さんの組織を詳しく調べ、ガンが神経を巻き込んで神経の損傷反応が高まっている組織はPD-1抗体の効果が無いことを発見する。
    Imp:
    ガンの神経浸潤により脱ミエリン化が起こり、これが炎症を誘導している.
    この炎症が治療抵抗性の引き金。

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