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9月8日 ストレス太りのメカニズム(9月3日 Nature オンライン掲載論文)

2025年9月8日
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ストレス太りについては一般にもよく知られている。単純なメカニズムではないと思うが、一般的にはストレスホルモンを産生する副腎皮質系がストレスサーキットで刺激され、血糖を上昇させると考えられている。

ところが、今日紹介するMount Science医学校からの論文は、ストレス太りに関わる新しいメカニズムを明らかにした研究で、9月3日 Nature にオンラインに掲載された。タイトルは「Amygdala–liver signalling orchestrates glycaemic responses to stress(扁桃体から肝臓へのシグナルがストレスに対するグリセミック反応を調節する)」だ。

この研究ではまずストレスがかかると30分もすれば血糖が上昇すること、そしてこの反応に応じて、ストレスにより影響されるとされている扁桃体の前部を中心に神経活動が上昇する事を確認する。

次いで扁桃体の神経興奮が血糖上昇の原因であるかを調べるため、これらの細胞を遺伝学的に改変したマウスを用いて刺激すると、期待通り30分で血糖が上昇する。ただ、副腎皮質ホルモンやインシュリンはほとんど上昇せず、扁桃体の刺激はこれまで考えられていたのとは異なり、副腎皮質経路を介さないことが明らかになった。

次にこの反応に関わる扁桃体からの神経投射を調べると、主に投射する線条体と視床下部のうち、視床下部へ投射している経路がストレスにより活性化されることが明らかになった。視床下部に投射する扁桃体神経を蛍光ラベルして単一細胞レベルの転写を調べると、グルタミン酸作動性とGABA作動性の両方の神経の投射が見られ、どちらの細胞も扁桃体刺激後のグルコース上昇に関わっている。面白いのは、扁桃体神経細胞の発現遺伝子の中にはグルコース代謝と相関が知られている遺伝子多型が見つかっている遺伝子が多い。

副腎皮質非依存性の回路として考えられるのは、視床下部から組織に投射してグルコース新生に関わる神経経路で、ここでは肝臓に投射する交感神経経路に絞って調べ、扁桃体刺激により肝臓でのグリコーゲンからグルコースを作る代謝経路に関わる遺伝子発現が軒並み上昇すること、またこれがFOXO1 転写因子の下流で上昇していることを確認している。交感神経からの刺激については特に検討されていないが、おそらくノルアドレナリンによる作用が、肝臓細胞の代謝システムをリプログラムさせると考えられる。

ただ、これらの反応は急性の反応で、これだけではストレス太りは説明できない。この研究では、ストレスが続くと、扁桃体神経の興奮閾値が高まって、ストレスに反応できなくなることに注目している。そこでストレスに反応する細胞を特異的にジフテリアトキシンで殺したマウスを作成すると、ストレスにはほとんど反応しなくなるのだが、高脂肪食だけでなく正常食でも太りやすく、グルコース耐性が低下してしまうことを発見する。この原因を探ると、肝臓で α2Aアドレナリン受容体が低下し、一方β2アドレナリン受容体が上昇し、これが肝臓からのグルコースのアウトプットを上昇させる結果であると結論している。即ち、ストレスによりストレスセンサーが鈍化することが、代謝の変化に対応できない状態を作り、肥満や2型糖尿病のリスクを上げると結論している。

以上、これまでとは全く違うストレス太りのメカニズムを明らかにした面白い論文だ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ストレスによりストレスセンサーが鈍化することが、代謝の変化に対応できない状態を作り、肥満や2型糖尿病のリスクを上げる!
    Imp:
    やはり、ストレスで肥満・DMを発症するんですね。

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