子供の呼びかけに応じて授乳をしたり、子供を舐めたりする母親の行動にオキシトシンが重要な役割を演じていることは、動物だけでなく人間の研究でも確認されているが、乳児側の反応とオキシトシンの関係を調べる実験は難しい。人では母親とのスキンシップにより乳児のオキシトシンが上昇する事は知られているが、オキシトシンの乳児行動への直接作用についての研究はほとんど見たことがない。
今日紹介するイスラエル ワイズマン研究所からの論文は15日齢の乳児の脳操作という課題にチャレンジして、オキシトシンの乳児の行動に対する作用を明らかにした研究で、9月11日号の Science に掲載された。タイトルは「Oxytocin signaling regulates maternally directed behavior during early life(オキシトシンシグナルは乳児の母親に向けられた行動を調節している)」だ。
この研究では15日齢のマウスを母親から離したあと、元のケージに戻して最終的に母親の乳首にたどり着くまでの行動とその間の超音波域の発生パターンを精密に記録して、乳児が発する母親へのシグナルを特定している。この時、母親側の行動を制限するため、母親は麻酔で眠らせて、乳児が独自に母乳を探すよう仕向けている。
結果だが、母親のケージに戻ると、特定のパターンの発声でシグナルを送リ始め、乳首にたどり着くとき少し違った発声パターンに代わり、その後発声は消失する事を明らかにする。
次はこの行動にオキシトシン分泌神経が関わっているか調べる必要がある。このため、まず親から引き離した時に活動する神経を調べ、オキシトシン産生神経が活動することを確認したあと、オキシトシン産生神経活動を脳に挿入したファイバースコープを介してリアルタイムで計測し、母親から離れたことにより神経が興奮することを確認している。大人のマウスでは普通に行われる実験だが、15日齢でこれを行うのは簡単ではないと思う。いずれにせよ15日齢では既にオキシトシン神経は形成され、働いていることがわかった。
次はオキシトシン神経をブロックしたときに起こる行動変化を、まず化合物を注射して特異的に神経を抑制する遺伝学的方法を用いて調べている。結果だが、まず乳首に到達する時間が早くなる。発声は抑えられないが、パターンが変わる事から、影響が見られる。
ただ、この結果、特に乳首までの時間が短くなることが説明できないと感じて、これはセンシティブな乳児に腹腔注射を行ったせいではないかと考え、光遺伝学的にオキシトシン神経を抑える実験にチャレンジしている。
15日齢を大人で行う光刺激装置を付けるのは至難の業だったのだろう。代わりに、まだ頭蓋が薄いことを利用して、頭蓋を露出したマウスに、脳まで届く赤い光を照射して光遺伝学的にオキシトシン神経を抑制する方法を開発している。具体的には、マウスを母親から離したところで赤色光照射し、そのあとで母親のケージに戻したときの行動変化を調べている。結果だが、化合物注射と異なり、乳首にたどり着くまでの行動はほとんど変わらないが、分離されたとき、そして乳首に到達したときの発声が特にメスで強く抑えられる事を明らかにしている。
以上が結果で、化合物注射による抑制と、光遺伝学的抑制の結果が大きく違うことから、乳児の実験の難しさがうかがわれる。結論としては、子供から母親へのシグナルを発するコミュニケーションにオキシトシンが関わるということになる。できれば刺激実験もほしかったが、難しいのだろう。
子供から母親へのシグナルを発するコミュニケーションにオキシトシンが関わる!
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子供の側の行動にもオキシトシンが関与!