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 9月20日 プロモータとエンハンサーの安定な関係を維持するゲノム構造(9月18日 Science 掲載論文)

2025年9月20日
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遺伝子発現調節セットプロモーターとエンハンサーとの関係はかなり整理されているように感じていた。スーパーエンハンサーのように様々な場所からエンハンサーがプロモータにリクルートされる場合は別として、両者はゲノムの三次元構造で決定される領域内 (TAD) でのみ相互作用ができるようになっていて、その中でなら場所が変わっても同じように相互作用するというデータも示されてきた。

今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文はES細胞とSox2遺伝子発現というよく研究された遺伝子調節機構を利用して、TAD内でもエンハンサーの影響は複雑な調節を受けていることを示した研究で9月18日 Science に掲載された。タイトルは「Functional maps of a genomic locus reveal confinement of an enhancer by its target gene(ゲノム領域の機能マップはエンハンサーが標的遺伝子により制限されていることを明らかにした)」だ。

研究では Sox2 がコードされている遺伝子を中心にした 4Mb の TAD のSox2遺伝子近くに、Sox2のプロモーターと蛍光マーカー遺伝子をレポーターとして組み込んだトランスポゾンを新たに挿入し、このトランスポゾンを活性化して様々な場所にレポーターを移動させ、経口の強い細胞から弱い細胞まで、セルソーターで純化し、一個一個の細胞についてどこにレポーターが移動したかを20万個の細胞で調べている。

トランスポゾンはSox2遺伝子のすぐ上流、及び 50kb 上流に挿入してそこから飛ばしている。結果だがどの領域でもほぼ同じようにエンハンサーが作用できるとする予想に反し、エンハンサー活性はレポータートランスポゾンがSox2遺伝子の近く、あるいはエンハンサーの近くに移動したときだけ高く、Sox2遺伝子とエンハンサー領域の間では中程度、そしてそれより外ではほとんど活性が見られないことがわかった。即ち、同じ TAD内でもエンハンサー活性は大きく変化し、さらにこの活性はトランスポゾンとエンハンサーのコンタクトする頻度を反映していることから、正真正銘のエンハンサー活性を反映していることがわかった。

この実験系では元々の Sox2遺伝子は存在していることから、おそらくSox2遺伝子がエンハンサーの作用範囲を制限しているのではと著者らは考えた。そこで元々のSox2遺伝子を除去する実験を行い、同じようにトランスポゾンを飛ばして調べると、今度は TAD の内側であればほとんど同じような遺伝子発現が見られることがわかった。即ち、エンハンサーは同じプロモーターであってもSox2遺伝子に結合しているプロモーターを好んで選んでいることがわかる。

この原因を探るため、Sox2遺伝子のコーディング領域をトランスポゾンに加える実験を行うと、完全ではないが第一エクソンの 1kb を加えると、よりエンハンサーに好まれるようになることを示している。

結果は以上で、実験系が面白いこと、現在考えられているエンハンサーとプロモーターの関係とは異なる結果が示されたことなど、面白い研究だが、まだまだ現象論にとどまっているのは残念だ。

現在生成 AI にゲノムを学習させる試みが進んでいるが、本当にノンコーディング領域に書き込まれたこのようなコンテクストまでキャッチできるようになるのか、行く末を是非見てみたい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    同じ TAD内でもエンハンサー活性は大きく変化し、さらにこの活性はトランスポゾンとエンハンサーのコンタクトする頻度を反映している!
    Imp:
    現在考えられているエンハンサーとプロモーターの関係とは異なる結果!
    現在生成 AI にゲノムを学習させる試みが進んでいるが、本当にノンコーディング領域に書き込まれたこのようなコンテクストまでキャッチできるのか!?
    次回のAI勉強会の案内もよろしくお願いします!

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