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9月27日 奴隷貿易と重なるネッタイシマカの歴史(9月18日 Science 掲載論文)

2025年9月27日
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黄熱病やデング熱の媒介昆虫は言わずと知れたネッタイシマカで、温暖化に伴い我が国本州にも入ってきたのではと大騒ぎになったこともある。今日紹介する Verily Life Science という米国のヘルスベンチャーを中心とする国際チームが9月18日 Science に発表した論文は、世界中から集めたネッタイシマカの一種のゲノムプロジェクトで、人間のゲノムプロジェクトと同じように現在世界中で人類を悩ませているネッタイシマカの由来や移動の有様がよくわかる論文で、勉強になった。タイトルは「1206 genomes reveal origin and movement of Aedes aegypti driving increased dengue risk(現在世界で増加しているデング熱を媒介するネッタイシマカの由来と移動が1206個体のゲノムから明らかになった)」。

ネッタイシマカについては国際ゲノムプロジェクトが進んでおり、この論文もその一環として発表されている。最終的にこのプロジェクトだけで31テラベース、人間のゲノムを3ギガとすると、それだけで1万人分のゲノム解読量になる。

さて、これを読むまで全く知らなかったが現在のネッタイシマカは大きくforosus (万能型) とaegypti (人間型) に別れ、デングを媒介しているのは aegypti (AG) の方だ。これまでの研究でネッタイシマカは他の種から85000年前インドで分離し、その後アフリカ熱帯ジャングルで繁栄し、爬虫類を含むほとんどの血液を吸って生きる万能型として生きてきた。その後、人間が増えるに従って数千年前に人間型のプロトタイプ(プロト人間型)が生まれ、それが南米で人間型へ進化し、これが現在南米、アジアで猛威を振るうネッタイシマカであることが述べられている。

特にヒト型プロトタイプ以降のネッタイシマカゲノムは、人口が増え人の移動が増えるとともに、内部であるいは他の方と複雑な交雑を繰り返しているので、その影響を除いて系統樹を構築するのに結構手間取ったようだが、最終的にいくつかの可能性の中から、起原と移動についてのシナリオが完成しているので、詳細を省いてそれだけを紹介する。

まず現在の分布だが、人間型はほとんどアフリカには存在せず、アフリカでは今も万能型が優勢だ。ただ、西海岸ではプロト人型が、逆に東海岸ではほんの少し人型が存在している。

ゲノム系統樹から万能型からプロト人間型の進化が5000年前に起こるが、これは西海岸で人口が増えヒトへの感染がより容易になったことによる。その後何千年もこの状態が続き、アフリカ以外にはネッタイシマカは存在しなかった。そこに1800年代に入ってアフリカ西海岸から奴隷貿易が盛んになることで、プロト人間型がアメリカ大陸に上陸する。そうして増加する人間を栄養分として繁栄するが、その中で人間型が発生し、現在アルゼンチンで分離されているプロト人間型ネッタイシマカが南アメリカで拡大したプロト人間型でそこから人間型が分離したことがわかる。即ち、人間型のネッタイシマカは奴隷貿易が始まった後、プロト人間型が独自に進化した結果である事がわかる。

そして、この人間型は人間の移動とともにあっという間にアジア、オセアニアの熱帯地域に拡大している。

その結果、南アメリカではプロト人間型と人間型、そしてその間の交雑型が現在も維持されているが、アジアでは人間型だけが繁栄している。一方、アフリカでは西海岸の一部の地域を除くとプロト人間型は逆に存在せず、万能型と人間型が混在して存在している。これらは、人間の動きとともにそれぞれのタイプが持ち込まれ交雑を繰り返した結果である事がわかる。

その後特にアメリカでは積極的に撲滅が図られ、一時ネッタイシマカがほとんど存在しない時期があった。その後殺虫剤耐性株の出現などで、結局アメリカ大陸には一部の地域を除くと、アジアと同じで人間型だけが再拡大し、現在の状況が生まれている。これらは、殺虫剤への抵抗性遺伝子を追いかけることで、正確に跡づけることができる。その結果、アフリカへの人間型の持ち込みが今度は東海岸で見られるようになり、アメリカ、アフリカともにプロト人間型は一部の地域だけに限られることがわかった。

このようにたった200年程度の間に大きな変遷を、しかも人間ともに遂げているネッタイシマカは、今後の温暖化と人類の新しい移動のタイプ等の結果、これまでとは異なる変遷をと遂げる様な予感がする。それがどんな世界か、あまりいい予感はしない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    たった200年程度の間に大きな変遷を、しかも人間ともに遂げているネッタイシマカ!
    Imp:
    わずか200年の間に!
    今後も短期間の間に進化していきそうで怖いです。

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