CAR-Tは抗原特異性をデザインできるガン免疫として実際に臨床で大きな成果を挙げているが、まだまだ万能ではない。ガンに発現する同じ抗原に対するキメラ抗原受容体 (CAR) を導入した細胞を移植しても、結果はまちまちで、その理由がわからないことが多い。そこで、CAR-Tの遺伝子改変で、より効果の高いCAR-Tを誘導するためのチャレンジが進んでいる。
9月24日 Nature にオンライン掲載された論文の中に、2報のクリスパースクリーニングを用いてCAR-Tの機能に影響を及ぼす遺伝子を網羅的にリストする試みを見かけたので、まとめて紹介する。方法も結果も違うのだが、今回はハーバード大学からの論文を中心に紹介する。タイトルは「In vivo CRISPR screens identify modifiers of CAR T cell function in myeloma(生体内でのCRISPRスクリーニングにより骨髄腫に対するCAR-T機能のモディファイアーが見つかる)」だ。
人間の骨髄腫株を移植した免疫不全マウスに、これに対するCAR-Tを注射して、21日目の移植細胞を採取しゲノムを調べるのだが、マウスに注射する前にクリスパーを用いて機能に影響するのではと考えた1180種類の遺伝子をノックアウトしておき、21目に採取したCAR-Tでどの遺伝子がノックアウトされると、増殖維持されやすくなるかを調べている。
この方法で、いくつかの遺伝子がノックアウトによりCAR-Tを長続きさせるとしてリストされてくる。もちろん遺伝子がノックアウトされるとCAR-Tとして全く維持できなくなる遺伝子も存在し、例えばサイトカイン刺激に関わるSTAT3やIL2受容体αは時間がたつと細胞集団から消えてしまう。一方、CAR-Tを長続きさせる遺伝子はノックアウトされると集団の中で数が増えてくる。
この研究ではノックアウトによりはっきりと効果が見られた遺伝子としてRASの活性化に関わるRASA2、サイトカインシグナルを抑える脱リン酸化酵素PTPN2、そして細胞周期の抑制に関わるCDKN1B(p27のこと)がリストされた。
そこでそれぞれを別々にノックアウトしたCAR-Tを作成し、抗腫瘍効果を調べるとCDKN1BノックアウトCAR-Tが最も高いキラー活性を示し、しかも長期にガンを抑制することができた。一方、他の2つの遺伝子では効果は見られるものの、長続きしないことがわかった。
メカニズムを調べると、予想通り細胞周期の抑制が低下するため、細胞の増殖が高いレベルで維持されるが、それだけではなくCD8キラー細胞への誘導も強く、結果として抗ガン作用の強い細胞を誘導して増殖させられることを示している。
とすると今度はCAR-Tがガンになってしまうのではと心配するが、基本的にはガンの刺激が存在するときだけ細胞の増殖が維持されること、更にはこれまでのCAR-T治療で発生した腫瘍性細胞でCDKN1Bが欠損した細胞が見つかっていないことを挙げている。最近では自殺遺伝子を組み込むことも可能なので、トライする価値はある。
もう一編の論文はウィーンの分子医学研究所からの論文だが、クリスパースクリーニングから実際の臨床応用までシステミックに行えるよく考えられた方法が提案されている。ただ驚くのは、それぞれの研究が標的にしている細胞がハーバードは骨髄腫、分子医学研究所は白血病という差はあるのだが、発見された遺伝子のオーバーラップは少なく、この研究ではGタンパク質の一つRHOGと細胞死遺伝子FASで、FASとRHOGをノックアウトしたCAR-Tは腫瘍抑制効果がかなり高くなることが示されている。
ざっと見た感じ、やってみてもいいかと思うのはハーバードのCDKN1Bだが、要するに一度で全ての答えが出るわけではなく、このような試みを繰り返す中で最強で安全なCAR-Tが生まれてくるのだと思う。
1:抗腫瘍効果を調べるとCDKN1BノックアウトCAR-Tが最も高いキラー活性を示し、しかも長期にガンを抑制する。
2:他の2つの遺伝子では効果は見られるものの、長続きしない.
Imp:
工夫が続くCAR-T療法。
ワクチン・サイトカイン・ICI・リンパ節で
CAR-T*INF-γ⇔樹状細胞*IL12を形成、
生体内免疫ブースターの核を形成することが一番大事な仕事だと感じる今日この頃です。