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10月1日 膵臓ガンが分泌するオステオポンチンの作用(9月24日 Nature オンライン掲載論文)

2025年10月1日
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オステオポンチンはbone biologyではよく知られた分泌分子で、石灰化を抑え、破骨細胞活性化による骨吸収を高めるなど、骨のリモデリングに関わる分子として知られてきた。ノックアウトマウスでは骨の発生に異常は認められず、骨吸収が抑えられ骨量増加が見られる程度だが、骨折時の修復の遅延等が報告されている。ただ、ノックアウトマウスの解析から、オステオポンチンが骨以外の様々な細胞で機能していることが明らかになった。

今日紹介する英国ガン研究所からの論文は、オステオポンチンが膵臓ガンの上皮間質転換を誘導し転移を促進することを示した論文で、膵臓ガンでは骨のリモデリングと使われている同じ分子セットが働いていることがわかる研究。9月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「SPP1 is required for maintaining mesenchymal cell fate in pancreatic cancer(膵臓ガンの間質細胞形質の維持に必要)」だ。

SPP1はオステオポンチンのことで、このような全く記号化された名前をわざわざタイトルに使うことで読んでみようとする人の数が減るのではないかと心配する。私も「SPP1とは何ぞや」と調べた結果、オステオポンチンと知って急に興味がわいた。

全く知らなかったが、膵臓ガンが進行すると血中のオステオポンチンが上昇するすることが知られていたらしい。この上昇が膵臓ガンの悪性度と関係があるのか調べるために、single cell レベルで遺伝子発現を調べ、オステオポンチンの発現と上皮が間質細胞のように変化するEMTが強く相関していることがわかる。ただ、間葉系に変化した細胞がオステオポンチンを分泌するのではなく、上皮タイプの細胞から分泌される。

ガン細胞からオステオポンチン遺伝子をノックアウトすると、間質系の形態をとる細胞が消失することから、上皮からのオステオポンチン分泌が間葉系へ転換したガンを維持していることがわかる。また発ガン後オステオポンチン遺伝子をノックアウトすると、転移が強く抑制される。異常のことから、膵臓ガンは様々な刺激で間質系細胞への転換が起こり転移しやすくなるが、間葉系細胞は上皮からのオステオポンチンに依存して増殖維持されていることが明らかになった。

そこで、上皮から分泌されたオステオポンチンが間質系細胞に作用するメカニズムを、上流から下流まで詳しく調べ、

  1. 膵臓ガンの場合オステオポンチンはインテグリンβ3を受容体としてシグナルを伝える。
  2. 膵臓ガンのオルガノイド培養で、オステオポンチン刺激によりBMP2とその阻害分子Grem1が誘導される。BMP2はインテグリンの直接の下流で誘導されるが、Grem1は誘導されたBMP2により誘導される。
  3. インテグリンの刺激はNFκBシグナル経路を介してBMP2を誘導する。

以上が結果で、BMP2は snail、slug、twist 等を誘導してガンの上皮間質転換を誘導することは知られていたが、膵臓ガンではその上流にオステオポンチンが存在したことになる。そして、骨の細胞と同じように、BMP2は同時に自らの阻害剤であるGrem1の誘導を刺激することで、間質系転換への絶妙バランスを誘導することになる。

この3者によるバランスは、例えばGrem1をノックアウトしておくと、オステオポンチンをノックアウトしても間質系転換した細胞はそのまま維持される。逆にオステオポンチンを過剰発現させて誘導される強い間質系細胞への転換は、Grem1を過剰発現させると抑えられる。このようにBMP2を真ん中に3者がバランスを形成することで、膵臓ガンの上皮間質系転換が調節されていることがわかる。

研究としては特に驚くほどではないと思うが、膵臓ガンがオステオポンチン、BMP2、そしてGrem1という骨のリモデリングの三種の神器をそのまま使って、より悪性の転移しやすい細胞を作っているという類似性には驚いた。

  1. okazaki yoshihisa より:

    MP2はsnail, slug, twist等を誘導してガンの上皮間質転換を誘導することは知られていたが、膵臓ガンではその上流にオステオポンチンが存在した!
    Imp:
    骨のリモデリングに関わる分子が、このような働きを持っていたとは!

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