最近 Nature Medicine に発表された論文の中に、変わった切り口の臨床研究を見つけたので紹介する。
最初は糖尿病予備軍の糖尿病への移行を防ぐため、食事の改善や運動を取り入れたプログラムを参加者に1年間行って貰い、その後の9年にわたる経過観察で、実際に糖尿病への移行をかなりの程度防ぐことができたコホート研究の中から、体重が低下しない、あるいは増えたにも関わらず糖尿病予防が達成できたグループを抜き出して調べた研究で、タイトルは「Prevention of type 2 diabetes through prediabetes remission without weight loss(2型糖尿病を体重の減少なしに予防できるケース)」だ。
このような介入試験の常だが、1100人あまりの参加者のうち、230人は体重減少を達成できなかった。しかしながら、このうち50人は糖尿病予防が達成できており、体重減少と糖代謝の改善が乖離した。そこで、介入によって体重減少が達成できず、糖尿病の予防が達成できないグループ(non-responder)と、予防が達成できたが体重は減少しなかったグループ (responder) について、その差を探索している。結果をまとめると、
- 50人の responder では、介入によりインシュリン感受性が改善している。
- Responder ではインシュリン分泌能やβ細胞機能が改善していた。
- Responder では皮下脂肪優位の肥満で、体重にかかわらず介入成功者の多くは内臓脂肪の減少が見られた。
- 肝臓の脂肪は両者で変化なかった。
- 慢性炎症を示す指標は responder、non-responder で差はなかったが、responder ではアディポネクチンのレベルが non-responder より高かった。
- GLP-1、GIP分泌は両者で変化はなかったが、グルカゴンのレベルが responder で低下していることから、インクレチンに対する感受性が responder では改善している。
- 遺伝的肥満リスクスコアに差はなかった。
以上が結果で、これまで考えられているように、皮下脂肪がついても、内臓脂肪の蓄積を防げれば糖代謝を正常に維持できる良い肥満と考えて良いという話だが、生活改善介入臨床研究から明らかになった点が面白い。
もう一つのフロリダ大学からの論文は、芸術の力を借りて病気を防げることをうたった研究論文を集めて調べ直したメタゲノム研究だが、記述的すぎてよくわからない点も多い。ただ、芸術の力を簡単に持ち出す話は多いので、その意味で面白い研究だ。タイトルは「The arts for disease prevention and health promotion: a systematic review(病気の予防と健康増進のための芸術:システミックレビュー)」だ。
この研究では芸術を健康増進や予防のために利用した結果を報告している論文を網羅的に集め、研究が科学的に行われたかどうかでフィルターをかけ残った6831編の論文を精査している。1992年から2024年までのほぼ30年に6800もの論文が健康と芸術の関わりについて発表されているのにまず驚く。
最終的には条件をクリアした95報に絞っているが、それでも解析は散漫で終わっており、結論らしい結論は出ずに、著者らの感想が書かれているといった具合だ。実際、芸術といっても、ビジュアルアート、音楽、ダンス、劇、文学まで含んでおり、それぞれ人間に対する影響は異なるはずで、アートと一言で片付けるのは乱暴に思える。
また、介入した対象集団も多様だが、どうしても貧困などの問題を抱えている集団が対象になりやすい。また多くの論文では最初からアートの効果を考えるわけではなく、貧困層の健康を守るためのリテラシーを上げるためのシンボルとして使われているケースが多い。例えばみんなで合唱しようといった運動のイメージだ。
結局明確な結論はなく、最後は著者の印象として、ほとんどの研究で芸術は文化活動に参加することで対象となった人々の身体的活動を高め、また人と人とが混じり合える機会を作るために用いられており、芸術自体の力というわけではないと結論している。わかりにくい研究でよく採択されたと思うが、ともすると芸術自体の力を信じてしまうが、それに対する批判的な取り組みとして見ると面白い。
皮下脂肪がついても、内臓脂肪の蓄積を防げれば糖代謝を正常に維持できる良い肥満と考えて良いという話!
imp.
本当!
内臓脂肪、脂肪肝が元凶です。