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10月5日 ALSを自己免疫病と考えていいのだろうか?(10月1日 Nature オンライン掲載論文)

2025年10月5日
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ALSは進行性の神経変性疾患で、現在のところ神経細胞やグリア細胞の内因的原因で起こると考え研究や治療開発が行われている。例えば昨年認可された変異SOD1の発現を抑える核酸薬はその代表的な例と言えるだろう。我が国でもCiRAの井上さんたちは iPS由来神経オルガノイドを用いた創薬研究を行っているが、この実験系では基本的に自己免疫疾患のような免疫メカニズムは想定していない。

一方で、これまでこのブログでも紹介したが、免疫系の関与を示唆する研究も存在する。一つは3例の患者さんに制御性T細胞を末梢血から純化し戻すと、細胞が作用している間は進行が止まるという研究だ(https://aasj.jp/news/watch/8483)。さらに、マウスでT細胞が媒介する自己免疫ALSモデルを作成し他研究も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/19988)。

今日紹介する La Jolla 免疫研究所からの論文は、ASLの患者さんの末梢血のリンパ球を取り出し、ALS に関わるTD-43、SOD-1、C9orf72由来ペプチドに対する反応を詳しく調べ、ALS患者さんでは C9orf72 由来の様々なペプチドに反応してIL-5分泌など主に2型免疫反応を示すCD4T細胞の活性が上昇していることを示し、ALSも自己免疫として治療開発を行う価値があるのではと提案する研究で、10月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Autoimmune response to C9orf72 protein in amyotrophic lateral sclerosis(ALSではC9orf72mタンパク質に対する自己免疫反応が見られる)」だ。

研究ではともかくALSの患者さんでALS関連分子に対する免疫反応を検出できるかに絞って調べている。 La Jolla 免疫研究所はコロナパンデミックでいち早く患者さんのT細胞免疫を調べた論文を発表した研究所で、ヒトの免疫反応検出では定評がある。

まず末梢血T細胞タイプの変化を調べると、増加しているポピュレーションは全く見られず、逆にMAITと呼ばれる粘膜免疫に関わるT細胞やTh1型のT細胞の減少が見られている。

次に、それぞれの抗原に対応するオーバーラップする15アミノ酸からなるペプチドプールを抗原として患者さんの末梢血の反応を見ている。ただ、反応するT細胞の数が少ないので、まず2週間抗原反応性細胞を増加させたあとで、同じ抗原で二次刺激を行い、様々なサイトカインの分泌反応を見ている。

結果だが、ALSとコントロールの反応を比べた時、ALS特異的反応が見られたのは C9orf72 に対してのみで、しかもインターフェロン分泌のTh1反応ではなく、IL-5やIL-10を分泌するTh2反応優性であるという不思議な結果が出ている。一方、パーキンソン病やアルツハイマー病の患者さんの末梢血も C9orf72 に反応するが、ほとんどがインターフェロン分泌するTh1がたであることも確認している。

以上から、ALSでは C9orf72 に対するTh1反応が上昇していると結論できるが、実際反応している細胞を調べると、DD4陽性のTh2型細胞であることが確認された。

この研究の圧巻は、ALS患者さんのT細胞が反応する個々のペプチドを特定している点だ。これまでの様にまず全てのペプチドをプールして刺激の後、次に10種類のペプチドで刺激を続け、最後に個々のペプチドに対する反応でサイトカイン分泌を調べると、それぞれのペプチドに対する反応が測定できる。なかなか凝った実験系だ。驚くのは、何人もの患者さんが反応する C9orf72 由来のペプチドがいくつも存在することで、例えば C9orf72 の57番目から70番目までのペプチドにはなんと3割の人が反応し、反応レベルも群を抜いて高い。要するに、なぜかALSの患者さんでは C9orf72 由来の様々なペプチドに対してTh2型の反応が起こっているということだ。また、それぞれのペプチドのHLAとの結合についても調べており、多くの人に反応するペプチドは確かに多くのHLAと結合できる。

しかし、これだけのデータでALSが自己免疫疾患だというのは早いと思う。これを証明するには免疫系を対象にした治療の結果病気を抑えられることを示す必要がある。これにはまだまだ時間がかかるだろう。さらに不思議なことに、ALSの患者さんでは C9orf72 のマクロファージでの発現が低下することが知られており、抗原が過剰に作られるという単純な話ではない。

実際、進行の遅い患者さんではペプチド刺激によるIL-10分泌反応が5倍以上高いこともわかっており、免疫反応の一部は病気の進行を抑えていることも示唆されている。逆に言うと、C9orf72 に対するIL-10反応を高めることで病気の進行を抑えられることすら考えられる。

以上のように、ALSの患者さんで C9orf72 に対する免疫反応が見られることは間違いないが、これらの免疫反応の病気に対する効果はまだまだわかっていないと結論するのが正しいだろう。面白いのは、ALSリスクの高い C9orf72 突然変異を持っている患者さんでは C9orf72 に対する免疫反応が何倍も高い。従って、神経変性と免疫反応が複雑に絡み合っていることは間違いなさそうだが、どちらが原因かについてはわからない。もし免疫が原因なら治療可能性が出てくるのだが。

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