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1月20日:本当の発想の転換(Scienceオンライン掲載論文)

2015年1月20日
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昨年のノーベル化学賞は、回折限界を超える解像度を持つ光学顕微鏡開発に与えられた。私自身はこの超解像度顕微鏡を使ったことはないが、授賞理由を見ると柔軟な発想で観察の光学的限界が超えられたのが理解できる。即ち、顕微鏡で観察される側の光そのものを操作するという発想の転換だ。しかし今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、その上をいく発想の転換のように思える。Science誌オンライン版(Science Express)に掲載された論文で、タイトルはズバリ2語、「Expansion microscopy (拡大顕微鏡だ)」。この研究では、顕微観察の解像度をあげるために、対象になる組織そのものを拡大するという180度の発想の転換が行われ、それが可能であることが示されている。いかにして組織を拡大するか?私たちの周りには、水を溜め込んで膨張する多くの高分子凝集剤が使われた製品があるが、同じ原理が使われている。この研究では、組織を固定した後、この高分子凝集剤のひとつsodium acrylateを組織内に浸潤させ、架橋材で格子状の高分子化構造を形成させ、最後にポリマーが組織に均一に分布するよう酵素処理を行っている。その後、水で透析するとポリマーが水を吸収し最大4.5倍まで拡大する。これにより見たい組織が、存在する分子数はそのまま、縦横高さが平均して4.5倍になる。体積でいうと、約90倍になる。この研究では神経に焦点を絞り、細胞骨格、小さなオルガネラ、また脳の海馬全体を蛍光抗体法で染めてその効果を示している。5倍ぐらいならレンズの倍率をあげれば同じと思われるかもしれないが、この方法が可能にしているのは分子間の距離を5倍広げることで、回折限界そのものが200nmから40nmになるのと同じ効果が得られる。このおかげで、倍率が上がるというより、回折限界を超える解像度が得られるというわけだ。論文に示された写真をお見せできないのが残念だが、得られる解像度には驚嘆する。おそらく、今後様々な方法と組み合わせて普及すると思う。事実、今回ノーベル賞に輝いた超解像度顕微鏡との相性も示しており、それはそれは美しい海馬の蛍光写真が得られている。大学を卒業して40年、基礎研究に移って33年だが、組織を拡大して観察するなどついぞ思いつかなかった。結局凡人で終わったことを思い知った。

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