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10月10日 精子生成過程で起こる選択(10月8日 Nature オンライン掲載論文)

2025年10月10日
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両親に遺伝子変異がないのに子供に新しい遺伝子変異が発生する病気は数多く存在し、例えばレット症候群やFOPなどはその典型例だ。これは精子や卵子が形成される過程で起こった突然変異が子供に伝わったことによる。ただこのような変異が頻発しないように、急速な細胞増殖を伴う精子形成では、変異が起こる確率が強く抑えられていることが知られている。一方で、精子形成過程で一部の突然変異、特にガン発生に関わるような変異が選択される可能性が示唆されていた。

今日紹介するサンガーセンターからの論文は、24歳から75歳までのボランティアから精子と血液細胞を採取しDNA配列を解読、精子で特定の遺伝子変異が選択されるか調べた研究で、10月8日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Sperm sequencing reveals extensive positive selection in the male germline(精子のDNAシークエンスにより男性の生殖系列で起こる強い遺伝子選択が明らかになった)。だ。

これまでの研究と同じで1年間に変異は1.4塩基の頻度で起こるが、血液で見ると1年間に20塩基に跳ね上がる。すなわち、精子形成では元々変異が起こりにくいようできている。変異の種類を調べると、精子では時間とともに蓄積するタイプに限られているが、血液では10%程度DNA障害が維持されているタイプが存在する。即ち、精子では障害がすぐに修復されるか除去されている。

次に、変異が見られる遺伝子について、アミノ酸変異を伴う変異と伴わない変異を調べている。もし変異が精子形成過程で選択されるとすると、アミノ酸変異を伴う変異のみで選択は起こる。とは言え、同じ人で時間をおいて2回調べると、同じ変異が見つかる確率はほとんどない。即ち、精子が多くのクローン由来であることがわかる。

この解析から精子過程で選択される遺伝子変異が30種類ほど特定され、ほとんどがRAS-MAPKの様な増殖シグナルと、発生に関わるシグナルに関わる。そしてその多くは変異に発生異常などの病気の原因になることが知られた遺伝子になる。即ち、病気の原因となる遺伝子変異が精子発生過程で選択されていることになる。逆に言うと、精子形成にアドバンテージをもたらす変異は、発達異常などの遺伝病の原因になることがわかる。

最後に、選択が見られる遺伝子をエクソーム全体で調べると、既に述べたように精子では選択が見られるが、同じような選択は両親と子供のゲノムを比較して子供に伝わったde Novo変異でも見ることができ、選択された変異がde Novo変異につながっていると考えられる。

以上のことから、精子形成での変異は低く抑えられるが、一部の遺伝子は精子形成過程というフィルターを通って選択され、年齢とともに上昇し、中年以上の男性では3−5%の精子がそのような変異を持っている。おそらくこの結果、年齢の高い父親からの子供が様々な疾患リスクを抱える原因になっていると結論できる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:病気の原因となる遺伝子変異が精子発生過程で選択されていることになる。
    2:精子形成にアドバンテージをもたらす変異は、発達異常などの遺伝病の原因になる。
    Imp:
    de novo変異
    精子形成アドバンテージと、遺伝病原因は表裏一体!

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