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10月11日 腸内細菌叢の水平遺伝子伝播ドライバーを調べる(10月9日 Science 掲載論文)

2025年10月11日
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我々の腸内では何千種類もの細菌がそれぞれ資源を奪い合ったり協力し合って一定の細菌叢を形成している。この内部の適応に、水平遺伝子伝搬や変異頻度を高めて多様化する仕組みが需要な働きをしていると推察される。その中で注目されているのが DGR (Diversity Generatinv Retroelement) で、アデニンを認識する逆転写酵素を使って、我々が実験で行うアデニン特異的変異誘導を行うユニットだ。ただ、実際の細菌叢でこれらがどのような働きをしているのか、研究は始まったばかりだ。

今日紹介するUCLAからの論文は腸内の Bacterioides に絞ってDGRを調べ上げ、その中で繊毛を形成する pilin 分子を持つDGRが水平遺伝子伝搬により Bacterioides の多様化に関わるプロセスを明らかにした研究で、10月9日 Science に掲載された。タイトルは「Targeted protein evolution in the gut microbiome by diversity-generating retroelements(腸内細菌叢でdiversity generating retroelementによって特定のタンパク質の進化が加速する)」だ。

将来のバクテリアの種特異的な遺伝子改変法の開発も視野に、この研究では腸内でのドミナントな Bacteriodes に絞り、データベースに集まった配列からDGRを探索し、なんと1100種類のDGRを特定している。そして、このユニットは大きく3種類に分けることができ、それぞれのユニットに存在する遺伝子は、繊毛を形成する pilin、細胞質内キナーゼ、そしてウイルス受容体タンパク質に分けることができ、これらの遺伝子の多様化に関わることを示している。

次に pilin をコードしているDGRに絞って、多くがプロファージやICEと呼ばれるバクテリアのモバイルエレメントと一体になっていることを発見する。

まず蛋白質構造学的に多様化の対象になる pilin が繊毛の Variable repeat 領域を逆転写酵素を用いてアデニン特異的突然変異を起こして多様化することを確認したあと、ICEにコードされたDGRが実際に水平遺伝子伝搬されるかを調べている。

通常ではICEはなかなか活性化されてゲノムから離れないのだが、なんと粘液成分に出会うと何百倍にも活性化され、このDGRを含まないバクテリアに水平伝搬される。これは培養系だけでなく、無菌マウス腸内でも同じように遺伝子伝搬と、多様化を誘導できる。そして、ICEの切り出しにはDNAミスマッチ修復酵素が関わることも明らかにしている。

このようにICEとセットでバクテリアからバクテリアへ高い確率で伝搬するだけでなく、内蔵する仕組みでアデニン特異的に変異を誘導して多様化することがわかる。面白いのは、培養上や少ないクローンを移植した腸内ではアミノ酸変化を有する変異が多く誘導されるが、腸内に安定した細菌叢を加えると、変異率が強く抑制され、いくつかの変異に収束する。一方で、アミノ酸変異を伴わない変異は維持されている。即ち、競合の結果特定のアミノ酸変異が選択されることを強く示唆している。

最後に、母親、子供、成長後の子供と腸内細菌叢を調べ、そこに存在する Bacteriodes 内の2700に上るDGRを全てリストし、経膣出産によりDRGが子供に伝わるだけでなく多様化と選択が行われ、独自のレパートリーを形成していることを明らかにしている。

以上の結果は、DGRとその多様化を通して、細菌叢がホストに適応するプロセスが明らかになることを示しており、生物学的、特に細菌叢とホストの共進化を考える上で面白い。また、細菌叢の遺伝子操作は現在でも難しい。その意味で、このような水平伝搬ユニットと遺伝子多様化ユニットを併せ持つDGRの研究は、将来の遺伝子操作に大きな道を開くと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:病気の原因となる遺伝子変異が精子発生過程で選択されていることになる。
    2:精子形成にアドバンテージをもたらす変異は、発達異常などの遺伝病の原因になる。
    Imp:
    de novo変異
    精子形成アドバンテージと、遺伝病原因は表裏一体!

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