血中に流れてくるガン細胞は circulating tumor cell (CTC) と呼ばれ、このブログでも2014年以来何度か紹介してきた。ただ最初の期待とは異なり、10年以上経過しても臨床への展開が進んでいるとは言いがたいように感じる。おそらく早い段階から CTC を見つけるのは難しいことが最大の理由だと思う。
ただ、進行したガンでは CTC がほとんどのケースで検出でき、血中のガン細胞の血栓や大血管への浸潤がその一因である事を示す臨床研究が、テキサスサウスウェスタン大学を中心とする国際チームから10月16日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Macrovascular tumor infiltration and circulating tumor cell cluster dynamics in patients with cancer approaching the end of life(大血管への腫瘍細胞浸潤と血中の腫瘍細胞塊の終末期ガン患者さんでの動態)」だ。
この研究が面白いのは、末期のガン患者さんが亡くなる原因は何なんだろうと疑問を持った点だ。そこで、固形ガンで亡くなった108例について、専門家に死因を診断して貰ったところ、意見の一致を見たのが16%だけで、51%のケースでは多くの専門家が最終診断を否定するという結果に終わっている。
なぜこんな話から始まるかというと、著者らは終末期のガン患者さんの死因の多くは腫瘍による血栓や大血管への浸潤による循環障害でないかと考えたからだ。そこで解剖例で組織検査を再検討すると、静脈や動脈での腫瘍塞栓の頻度は極めて高く、10%の患者さんでは大血管に塞栓が見られていた。次にCTスキャンが行われた101例で見ると、60例で大血管への浸潤を認めることができた。
そこで承諾が得られた終末期の患者さん21例について、亡くなるまで血液凝固検査を行うとともに血中の CTC を調べると、67%の患者さんで凝固指数が上昇するとともに亡くなる1日前から血中の CTC 数が急増し、またCTスキャンで大血管への浸潤を検出することができた。即ち、腫瘍細胞塊の急速な循環への流入が終末期の死亡原因の一つとなり得ることを示している。
次いで、CTスキャンで血管への浸潤が認められた患者さんと、そうでない患者さんでの予後を調べると、ガンの種類を問わず血管内浸潤が見られる場合、極端に予後が悪くなることを示している。
元々 CTC の見つかる患者さんでは予後が悪いことは知られており、ガンの血管への浸潤が全身状態を悪くする大きな原因になることを示した、臨床家として高いセンスを示す研究だと思う。ただ、浸潤防止策が明確でない限り、予後を分類するだけではむなしい。是非この原因を探る研究が進むことを期待する。
CTスキャンで血管への浸潤が認められた患者さんと、そうでない患者さんでの予後を調べると、ガンの種類を問わず血管内浸潤が見られる場合極端に予後が悪くなることを示している。
imp.
防止策の開発に期待します。