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10月25日 概日リズムの季節調整と食(10月23日 Science 掲載論文)

2025年10月25日
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朝のウォーキングが唯一の運動だが、10月も終わりに近づくと歩き出しはすっかり暗くなった。とは言え、自分自身の概日周期は時計の時間に支配されており、あまり季節に合わせて変化したようには思えない。しかし、途中で見聞きする鳥の活動は間違いなく季節調整が行われていることがわかる。このような季節によって変化する概日周期にアジャストするメカニズムはまだわかっていないことが多い。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、冬時間、夏時間にアジャストするとき、食事中の不飽和脂肪酸が重要な働きを演じていることを示した面白い研究で、10月23日号の Science に掲載された。タイトルは「Unsaturated fat alters clock phosphorylation to align rhythms to the season in mice(不飽和脂肪酸はマウスの時計分子のリン酸化を変化させて概日周期を季節にアジャストする)」だ。

この研究では昼12/夜12時間の季節から、昼4/夜20時間の冬、あるいは昼20/夜4時間の夏に実験室の光環境を変えたときに、マウスの行動がどう変化するかを調べ、身体の周期の適応を調べている。冬時間にアジャストするのに大体1日0.2時間程度のスピードで40日ぐらいかかって冬時間に適応するが、この時高脂肪食を自由に食べさせるとこの適応が大きく遅れることを発見する。逆にカロリー制限すると、適応のスピードが上がり20日もすると適応がほぼ完成する。一方、昼20/夜4の夏時間への適応を調べると、今度は高脂肪食の方が早く適応し、カロリー制限では適応が遅い。

この適応に時計遺伝子PER2の量とリン酸化が関わることがわかっているので、遺伝的に常にPER2がリン酸化されている変異、あるいはリン酸化されない変異を持つマウスを調べると、活性化型変異では夏時間への適応、不活性型変異では冬時間への適応していることがわかる。そして、高脂肪食では活性化型が上昇しており、これが冬時間への適応を抑制し、夏時間への適応を促進していることがわかる。逆にカロリー制限を行うと活性化型PER2が低下する。即ち、脂肪の摂取が季節への適応を変化させることがわかる。

高脂肪食の内容を精査し、実際に影響するのが不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の量比であることを突き止め、最終的に不飽和脂肪酸が2つの経路を通して季節時間への身体の周期調節に関わることを明らかにしている。

一つは、不飽和脂肪酸が直接PER2に作用してリン酸化を高め、夏時間への適応を促進する。同時に、不飽和脂肪酸の代謝酵素が概日周期により調整され、活性化型PER2によりオピオイドの一つオキシリピンへと転換され、体温や行動を変化させる一因として働く。

以上が結果で、食によってリン酸化PER2の量を調節することで、夏時間と冬時間の適応が可能になっているという面白い結果だ。昼4/夜20時間というと日本よりより緯度の高い地域だが、季節の変化が激しいことは、食物も大きく変化することを意味している。それぞれの季節で野生の動物が摂取する不飽和脂肪酸がどう変化するのかは把握していないが、おそらく季節によりリン酸化を高めたり抑えたりする鍵になることは十分納得できる。

翻って我々人間を考えてみると、季節とはお構いなしに人工光の中で、勝手に食べたいものを選んでいる。まだ、自然への適応力が残っており、不飽和脂肪酸とPER2がこれを調節するのか是非知りたいところだ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    それぞれの季節で野生の動物が摂取する不飽和脂肪酸がどう変化するのかは把握していないが、おそらく季節によりリン酸化を高めたり抑えたりする鍵になることは十分納得できる。
    Imp:
    頻出している熊も、そろそろ冬眠の時期のはず!

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