今日のタイトルは11月28日夜7時から開催するジャーナルクラブ(https://aasj.jp/news/seminar/27819)のタイトルと同じにした。というのも、今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は28日に伝えたいと思っていたことの全てが含まれていると感じたからだ。タイトルは「Macrophage-targeted immunocytokine leverages myeloid, T, and NK cell synergy for cancer immunotherapy(マクロファージをターゲットにした免疫サイトカインは顆粒球、T細胞、そしてNK細胞をガン治療へと組織化する)」で、11月19日Cellにオンライン掲載された。
20世紀の終わり、サイトカインの遺伝子クローニングが相次いだ頃、エリスロポイエチンやG-CSFの成功に続いて、免疫系の細胞を操作できるサイトカインによりガン治療も可能になるのではと期待が高まった。実際、インターフェロンや IL-2 は臨床にも使われたが、作用に比して副作用が高く利用は拡大しなかった。そこで局所投与も含め、効果だけを引き出すための様々な研究が今も続いている。
一つの方法がガン組織に集まる細胞に対する抗体を使ってサイトカインを患部に濃縮する抗体/サイトカインを用いる方法だ。この研究でもまずこの可能性を確かめるため、様々なガン組織上で免疫に関わる細胞の遺伝子解析を行い、ガン組織ではマクロファージの回りにT細胞が集積している度合いが大きいことを確認し、マクロファージを標的にする抗体にT細胞を活性化する IL-2 を結合させてガン組織内に IL-2 を集中させることを考えた。
マクロファージを標的にする抗体として選んだのがガンの免役回避を助けることがわかっているTREM2に対する抗体だ。これを阻害してサイトカイン以上の効果を得ようと一石二鳥を狙ったいる。ただTREM2に対する抗体だけでは移植した腫瘍の増殖を抑えることはできない。
そこでこの抗体に IL-2 を結合させれば、ガンのマクロファージの周辺で IL-2 が濃縮されT細胞やNK細胞の活性を挙げてくれると期待できる。もちろんこの時使う IL-2 は α受容体への結合力を欠損させて制御性T細胞の出現を抑えた操作 IL-2 (eIL-2) だ(例:https://aasj.jp/news/watch/9537) 。 大分前に紹介したが同じような試みはCD8に対する抗体に IL- 2を結合させる研究が進んでおり、少なくともサルを用いた実験では IL−2 の毒性が減り、ガン免疫を誘導する効果が示されている。ところがTREM2抗体を用いて一石二鳥を狙った今回の試みでは、腹腔に注射したマウスは全て死亡してしまった。原因はインターフェロンだけでなく、IL-6 や IL-2 の血中濃度が上昇する強い炎症が誘導されていることがわかる。
それならCD8に切り替えればいいところだが、このグループはガン組織のマクロファージを標的にすることでキラー細胞だけでなく、免疫系を全て動員する効果を期待しており、eIL-2 / 抗TREM2抗体の安全性をさらに高める方法を模索している。その結果、ガン組織のマクロファージが強く発現しているペプチド切断酵素を用いて、eIL-2 を活性化する方法を開発している。具体的には、eIL-2 / 抗体にもう一つ IL-2Rβ を結合させ、eIL-2 をマスクした上で、このマスクをペプチド切断酵素で外す構築を考えついた。すなわち、ガンの回りのマクロファージに eIL-2 / 抗体が到達したときだけ、eIL-2 からマスクが外れ回りの細胞を活性化するアイデアだ。最初見たとき、刺激したい相手も IL-2Rβ 、マスクも IL-2Rβ なのでうまくいくかなと心配するが、案ずるより産むが易しで、副作用なしに高いガン抑制効果を示すので、この分子をMiTEと名付けてその後に実験に利用している。
MiTEだけでも十分効果があるが、チェックポイント治療と組み合わせると、免疫だけで十分ガンを除去することができる。この効果の元を確かめる目的で、ガン組織に存在する免疫系の細胞についてsingle cell RNA sequencingで調べると、MiTE刺激を受けたガン組織では、キラー細胞だけでなく、NK細胞、そしてマクロファージまでガンを抑制する方向にリプログラムされていることがわかった。少し心配なのはeIL-2を使っていても制御性T細胞が上昇する事だが、これについてはCTLA-4を抑制するチェックポイント治療で対応できるとしている。
以上が結果で、CD8T細胞を標的にすると、キラー細胞だけしか活性化できないのが、面倒な分子マスクが必要だとしても、TREM2を標的にすることでガン組織の全ての免疫機能をガンに向けることができる点を強調している。
問題は人間でどうかだが、人間のガン組織をそのまま培養する実験系でMiTEを加えると、マウスで見られたのと同じような変化がガン組織の免疫系で起こることを示しており、臨床応用可能としている。
このように、サイトカインをガン治療に用いるには様々な壁が存在するが、問題さえ乗り越えれば大きな効果が得られることもわかってきた。従って、「サイトカインは再びガンの治療に使われる」というのが答えになる。

1:eIL-2 / 抗体にもう一つ IL-2Rβ を結合させ、eIL-2 をマスクした上で、このマスクをペプチド切断酵素で外す構築。
2:副作用なしに高いガン抑制効果を示すこの分子をMiTEと名付け
3:MiTE刺激を受けたガン組織では、キラー細胞だけでなく、NK細胞、そしてマクロファージまでガンを抑制する方向にリプログラムされている
4:MiTE+チェックポイント治療と組み合わせると、免疫だけで十分ガンを除去することができる。
Imp:
CytokineのTME操作効果は絶大!
Cytokine創薬が面白い所は、最小副作用で最大効果を狙う試みが、
人工生命創造と表裏一体と思える点!