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11月24日 細胞の形も分析できるセルソーターを用いたガンキラー細胞の分離(11月19日 Nature オンライン掲載論文)

2025年11月24日
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これまで細胞表面分子の蛍光染色と組み合わせたフローサイトメトリーは基本的に単一細胞レベルで解析するのが基本で、また細胞の形態は光の散乱でわかる範囲で分析していた。最近になって Cytech 社のImageStream や、東大のスピンオフシンクサイトの VisionSort のような細胞の形態も蛍光と同時記録できるフローサイトメーターが利用できるようになっている。

知らなかったが ImageStream では、単一細胞でなく細胞が接着した塊を壊さず分離できることもできるようで、今日紹介するオランダ ガンセンターからの論文はこれを利用して腫瘍や抗原提示細胞と結合しているCD8T細胞を分離し、クラスター内のCD8T細胞でガン特異的キラー活性が濃縮していることを示した研究で11月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Tumour-reactive heterotypic CD8 T cell clusters from clinical samples(臨床サンプルから得られる他の細胞と結合しているCD8 T細胞クラスターのガン反応性)」だ。

これまでガン組織の解析からガンの近くにマクロファージやT細胞が存在することは知られており、離れて存在する細胞よりガン免疫にコミットしているのではと考えられていた。この研究は、ImageStreamでガン組織から腫瘍とT細胞、あるいは抗原提示細胞 (APC) とガン細胞が接着したクラスターを分離することでガン特異的キラー細胞が濃縮できるはずだという仮説を確かめるために計画されている。

まずモデル実験でメラノーマ細胞株とヒトT細胞を4時間培養、それを ImageStream で解析すると、7割がガン細胞、19%が単一細胞、そして7%がクラスター細胞と、かなり高い割合でクラスターが存在する。こうして得られた単一細胞、あるいはクラスター内T細胞をガンと一緒に短期間培養して増やした後、同じガンを移植した免疫不全マウスに投与すると、ガンと接着していなかったT細胞はほとんどガン増殖抑制活性がない一方、クラスター内のT細胞はガンを強く抑制できた。

次は実際の臨床サンプルから細胞を調製する条件を調べている。接着した細胞を維持するためには組織の分離方法が重要になるが、酵素処理も行う普通の処理方法で、細胞死を抑えるためカスパーゼ阻害剤を加えている。モデル実験と異なり、クラスター内のCD8T細胞の数はガクッと減って0.13%程度で、ガンと直接接着しているCD8TとAPCと接着しているCD8T細胞に分かれる。

こうして得られるT細胞の遺伝子発現を調べると、安定的にガンやAPCと結合する接着機構を持ったCD8T細胞が濃縮し、細胞を調製する時のストレスにも十分耐えられるのがわかる。さらに、接着していないT細胞のほとんどは抗原刺激により誘導される分子がほとんど発現していないが、クラスター内のCD8T細胞は様々な抗原刺激による分子を発現している。面白いのは、APCと接着している細胞は exhaustionマーカーとして知られるマーカーを発現しいるのに、ガンと直接接着している細胞ではそれが認められないことで、ガン、APC、T細胞が一緒になって、キラー活性維持のためのネットワークを作っているのがわかる。一方、抗原受容体を調べると、クローン増殖した受容体プロファイルがどちらのクラスターでも見られるが、接着していない細胞ではクローン増殖を示すパターンは見られない。

最後に、それぞれのCD8T細胞を分離し、同じサンプルから得られるガン細胞と短期培養を行い、その後ガンを移植したマウスにCD8T細胞を投与すると、モデル実験ほど抑制効果は強くないが、APCあるいはガン細胞と接着していたCD8T細胞の方が強いガン抑制活性を持つことを示している。

以上が結果で、新しいフローサイトメトリーを用いて、ガンやAPCとの関係を調べることで、これまでの分画方法では得られない重要な情報が得られることを示した面白い研究だと思う。こうして得られるT細胞をそのまま増殖させることができれば、これまでTIL治療として行われてきたガン治療を確信できることは間違いない。

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