新しく Nature にオンライン出版された論文を見ていたら、むちゃくちゃ面白い Dendritic cell(樹状細胞)についての話題が2報出ていたのでまとめて紹介する。ただ、量が多いので実験の詳細はかなり省いて紹介する。
最初はオランダ・ユトレヒトにあるHubrecht研究所Hans Cleavers研からの論文で、パイエル板を覆う腸管上皮の一つM細胞が腸内の抗原を免疫系に受け渡すだけでなく、Dendritic cell と同じように抗原提示細胞として働き、おそらく腸の免疫疾患にも関わるという研究だ。タイトルは「Human gut M cells resemble dendritic cells and present gluten antigen(ヒト腸管のM細胞は dendritic cell によく似ておりグルテン抗原を提示する)」だ。
Hans Cleavers は腸管幹細胞の自己再生と分化についての研究をリードしてきた大御所だが、ヒトのオルガノイド培養を利用して、これまであまり研究されなかったM細胞を誘導する条件を探り、RNNKL、TNF、レチノール酸を加えた培地で様々な分化段階のM細胞を誘導できることを明らかにする。こうして得られた各分化段階のM細胞の性質を詳しく調べると、クラスII-MHC抗原を含む dendritic cell 特異的遺伝子発現しており、さらに dendritic cell 分化に必要なRunx2転写遺伝子依存性にM細胞も分化することを発見している。
後はオルガノイド培養で得られたM細胞が dendritic cell のようにT細胞の抗原特異的反応を誘導できるか調べるため、セリアック病の抗原としてよく知られたグルテン由来ペプチドを、リスクMHCとして知られるHLA-DQ2由来のM細胞に加え、刺激を受けると蛍光を発するT細胞と共培養すると、見事にT細胞をペプチド抗原特異的に刺激できることを明らかにしている。さらに、M細胞が小麦粉に含まれるグリアジンを処理してセリアック病の原因ペプチドへと転換できることまで明らかにしている。
以上が結果で、これまでM細胞はパイエル板へ抗原を運ぶだけと考えていたが、より積極的に腸に入ってくる抗原を処理して免疫系に提示していることがわかった。腸の細胞なら全て任せておけと言う Cleavers のパワーが感じられる面白い論文だった。
次のスタンフォード大学からの論文は、ノーベル賞で全国に知れ渡った制御性T細胞、Tregを選択的に誘導する dendritic cell の分化に赤血球増殖因子のエリスロポイエチンが関わることを示した面白い論文だ。タイトルは「Erythropoietin receptor on cDC1s dictates immune tolerance(DC1細胞上のエリスロポイエチン受容体が免疫トレランスを指示する)」だ。
坂口さんを京大再生研の教授として招いたとき、一番期待していただいたのが生体肝移植を成功させた田中紘一先生で、なんとか免疫抑制剤抜きで移植を成功させられないかと期待されていた。即ち移植臓器に対するトレランスを誘導するにはTregを誘導する以外にない。このモデル実験系として使われているのが、リンパ組織を放射線照射し、さらに胸腺細胞に対する抗体を投与して免疫を抑えた後、ドナー骨髄を移植する方法で、これによりホストとドナーの血液細胞キメラが成立して、臓器移植が可能になる。これまでの研究でこれを可能にするのがマウスリンパ組織の dendritic cell の一種 cDC1細胞で、これによりTregが誘導されると考えられている。
この研究ではこのモデルマウスのリンパ組織に存在するTreg誘導に傾いた cDC1細胞の遺伝子発現を調べた結果、Treg誘導に関わるとされる分子に加えて、エリスロポイエチン (Epo) 受容体が発現していること、また処理マウスではそれを刺激するエリスロポイエチンも上昇していることを発見する。
そこで dendritic cell 特異的にEpo受容体をノックアウトすると、アロ骨髄細胞都のキメラが全くできないこと、即ちアロ組織に対するTregができないことを発見し、少なくともこのモデルでは cDC1がEpoによりTregを選択的に刺激する方向へ分化させていることを明らかにした。
また、Epoに反応して誘導される分子を詳しく調べ、αvβ8 インテグリンがTreg誘導に必須で、これを dendritic cell からノックアウトするとやはりTregの誘導が起こらないことを示している。
後は組織抗原に対するTreg誘導及びトレランスを調べるモデル実験系で、Epoにより dendritic cell の分化を誘導したときに、Tregを誘導するとともに、エフェクター細胞の誘導を抑えることを示している。逆に、腫瘍免疫のモデル実験系では、dendritic cell のEpo受容体をノックアウトしておくと、PD-1抗体の効果をさらに高めて持続的な抗ガン免疫が成立することを示している。
Epoが dendritic cell をTreg誘導へと刺激するというのはむちゃくちゃ面白いし、Tregをうまく制御することで移植免疫とガン免疫の両方に対応できることを示す面白い研究だと思う。そして何よりも、坂口さんのTregが本庶さんのPD-1と協調してガンを抑えるという結果は、京都大学としてもうれしい話だ。

Epoがdendritic cellをTreg誘導へと刺激するというのはむちゃくちゃ面白いし、Tregをうまく制御することで移植免疫とガン免疫の両方に対応できることを示す面白い研究だ!
Imp:
Epoに、このような機能があったとは。。。
今年読んだ論文でATLの自然寛解に、T細胞がDC様の細胞に転換することが関わってるのではないかという報告がありました。今日ご紹介くださった報告も素晴らしく、血球分化は非常に複雑で非常に面白いと感じさせてくれます。
がん患者さんの化学療法に伴う貧血の予防でerythropoietinを投与すると血栓症リスク増加と予後が悪化するという大規模臨床試験の結果はひょっとしたらTregが関与しているかもしれないと感じました。ただ、がん細胞でEPO受容体の発現と予後不良と関連ありとの説明もあります。またMDSの貧血にはEPO製剤を使用しています。
Fenner MH, Ganser A. Erythropoietin in cancer-related anemia. Curr Opin Oncol. 2008;20(6):685-9. doi: 10.1097/CCO.0b013e3283136971.
コメント有り難うございます。私も同じことを考えました。Tregとエポなど普通は考えません。