AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 12月17日 気になる臨床研究:変な研究3題(ACS Central Science 11月号掲載論文他)

12月17日 気になる臨床研究:変な研究3題(ACS Central Science 11月号掲載論文他)

2025年12月17日
SNSシェア

今日の気になる臨床研究は3編の変な論文を紹介して、このような研究もあるのだと知ってもらおうと思っている。

最初はドイツ ビュルツブルグ大学からの論文で、厳密に臨床研究とは言えないが、インフルエンザの感染の新しい検査法の開発と言える。ただ通常の検査ではなく、陽性、陰性を自分の舌で感じて診断させる可能性を追求した研究で ACS Central Science 11月号に掲載された。タイトルは「A Viral Neuraminidase-Specific Sensor for Taste-Based Detection of Influenza(ニューラミダーゼ特異的センサーを用いて味によってインフルエンザウイルスを検出する)」だ。

この研究はインフルエンザウイルス検査としては完成していないが、アイデアはむちゃくちゃ面白い。インフルエンザウイルスはニューラミニダーゼ酵素を持っており、この酵素活性を用いて検出することができる。ただ、体外に取り出したサンプルで酵素活性を図るのではなく、ウイルスが感染した口の中でニューラミダーゼを反応させ、酵素で切断された生成物を舌で感じて診断させるという面白いアイデアだ。

ニューラミダーゼの基質 N-acetylneuraminic acid にタイム由来の化合物で舌を刺激する thymol を結合させ、インフルエンザのニューラミニダーゼ特異的に thymol が切り離される化合物を合成している。あとは、インフルエンザに感染した患者さんの唾液で thymol が切り離せるか、この基質はインフルエンザウイルスのニューラミダーゼ特異的かを徹底的に調べ、ウイルス特異的で診断に十分使える感受性を持っていることを確認している。研究はこれだけで、実際に診断に使えるかを調べてはいない。しかし、インフルエンザかなと思ったときこの基質を含むガムを噛んで苦みを感じたら自己隔離をして他の人に感染させないといった対応が可能になると、公衆衛生上でもかなり有望だと思う。

次のノースカロライナ大学からの論文は、家の中のゴキブリがエンドトキシンをまき散らして喘息の原因になっている可能性を検証した研究で、The Journal of Allergy and Clinical Immunology の来年1月号に掲載予定論文だ。タイトルは「Indoor allergens and endotoxins in relation to cockroach infestations in low-income urban homes(都市の低所得層でのゴキブリ蔓延が室内のアレルゲンとエンドトキシンの発生元になる)」だ。

ノースカロライナ、Raleigh の低所得者向けに立てられたタウンハウス型集合住宅コミュニティーを対象に被検37家族を集め、ゴキブリトラップを含むゴキブリ生息状況調査を行い、29軒でゴキブリが蔓延していることを確認、ゴキブリが見つからなかった8軒と、エンドトキシンやアレルゲンのテストを行っている。

一匹のゴキブリが糞として排出するエンドトキシンの量は、特にメスので5000EU(注射薬として許されるのが0.25EU/ml)にも達する。ゴキブリが蔓延すると診断され家のキッチンには6ヶ月の観察期間のうち50匹がトラップで捕獲されたが、これは家中にゴキブリ駆除の殺虫剤の入った餌を設置し、3ヶ月後にもう一度トラップを仕掛けてゴキブリが駆除されたことを確認している。この処置により、ゴキブリから発生するアレルゲンの量は低下する。また特にキッチンのエンドトキシン量が低下する。

結果は以上で、これにより喘息が防げるかについては検討されていないが、写真付きでゴキブリの蔓延が示され、エンドトキシンやアレルゲンの量と相関させている研究は、かなり実感がある。

最後は英国ロチェスター大学からの論文で、2017年から始まった農家と都会の子供の成長を記録するコホート研究で、食物アレルギー発生状況と免疫状態を調べている。タイトルは「Farm exposure in infancy is associated with elevated systemic IgG4 , mucosal IgA responses, and lower incidence of food allergy(農家で幼児期を過ごすことで血中IgG4と粘液IgAが上昇し、食物アレルギーが低下する)」で、12月10日 Science Translational Medicine に掲載された。

この研究が対象にした農家はOld Order Mennoite (OOM) と呼ばれる文明を拒否して自給自足をおこなうコミュニティーに生まれた子供で、これを都会の子供と比較している。2歳時点で、都会の子供は35%がアトピー性皮膚炎と診断されているのに、OOMの子供はたった3%しかアトピー性皮膚炎にならない。この免疫学的原因を探るのがこの研究で、2年にわたった血液と便について調べている。通常このタイプの研究は腸内細菌叢についても記述するのだが、この研究では全く細菌叢は無視している。

この研究からわかったことをまとめると、

  1. 血中のB細胞のうち、メモリー型やIgGにスイッチしたB細胞の数は、OOMの子供で高い。
  2. これと呼応して、OOMの子供は血中IgGとIgAが高い。
  3. 卵白やカゼインなど食物アレルゲンに対する免疫グログリンを調べると、OOMの子供はIgG4とIgA の値が高い。
  4. 便中(おそらく粘膜免疫を反映)のIgAはOOMの子供が高い。
  5. OOMの母親も同じように食物アレルゲンに対するIgG4, IgA値が高い。

これらの結果から、農家の子供の食物アレルギーが抑えられているのは、胎生後期から母親を通して免疫刺激を受けて、母親と同じIgG4抗体やIgA粘膜免疫を発展させることで、アレルギー性の免疫を抑えている結果だと結論している。今年のトピックスTregの話も全く気にせず我が道を行く研究だが、結果は面白い。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。