真菌感染は人類にとってまだまだ勝利宣言が難しい感染症で、WHOによると何年380万人の方が亡くなっている。私が医師として働き始めた1973年には、アンフォテリシンB(当時ファンギゾンという製品名だった)が利用可能になっていたが、強烈な副作用で使いたくない薬剤だった。ただ、この分野も少しづつ進歩しており、2001年からエキノキャンディン系の抗生物質が認可されるようになり、副作用の少ない抗菌治療が可能になってきた。クリプトコッカスはメカニズム的にCAPの標的になるが、他の真菌と比べると効果が低いことから、エキノキャンディンを助けるアジュバント薬の開発が行われていた。
今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文は、放線菌や真菌由来の4000種類の化合物ライブラリーを、エキノキャンディンの一つ caspofungin (CAP) のアジュバントとして利用できるかスクリーニングし、最終的に Butyrolactol A (BLA) を発見した研究で、2月31日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Butyrolactol A enhances caspofungin efficacy via flippase inhibition in drug-resistant fungi(Butyrolactol はフリッパーゼ阻害を通して薬剤耐性の真菌に対しcaspofunginの効果を高める)」だ。
スクリーニングで得られたBLAは、それ自身でも少し抗菌活性があるが、CAPと組み合わせると、2種類のクリプトコッカスを試験管内で抑制する。またマウス皮膚にクリプトコッカスを感染させる治療実験でも、CAPと組み合わせるとほぼ感染による死亡を抑えることができ、組織学的にもクリプトコッカスの増殖が抑えられていることがわかる。さらに、マウスレベルでほとんど副作用がない。
後は、BLAの作用機序を様々な方法で検討し、
- 標的分子が膜のフリッパーゼの一つApt1-Cdc50に結合し、本来の基質と競合することでフリッパーゼ活性を完全にブロックすることを明らかにする。フリッパーゼについて少し説明すると、膜の外と内の脂質を入れ替える働きを持つ酵素で、例えば膜の構成成分フォスファチジルセリンやフォスファチジルコリンを膜の内側に輸送している。
- この阻害機構について構造学的に解析し、BLAがApt1と結合することで、脂質を移送する入り口を物理的に詰まらせる。
- その結果、エンドゾームの形成が阻害され、アクチンの極性が喪失し、ATPが細胞外へと漏れ出し、細胞死に陥る。
- また、この機能変化により、CAPの細胞内濃度が上昇することで、CAPの抗菌作用を促進させる。
- フリッパーゼは我々の細胞にも重要だが、多くのフリッパーゼを持っており、また真菌の脂質に特異的に作用することから毒性が低いと期待できる。
結果は以上で、BLAは直接細胞を殺すわけではないが、フリッパーゼの機能をブロックすることで細胞の活性を低下させ、さらに細胞内のCAP濃度が高まることで、抗菌効果を高めるという結論になる。今後いくつかの動物を用いた前臨床から、臨床治験に進むと考えられるが、50年前ファンギゾンを使った経験がある医師なら、ゆっくりでも医学が着実に進んでいることを実感する。

BLAは直接細胞を殺すわけではないが、フリッパーゼの機能をブロックすることで細胞の活性を低下させ、さらに細胞内のCAP濃度が高まることで、抗菌効果を高めるという結論.
imp.
新たな抗真菌薬の開発。