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1月14日 時差調整の複雑性(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月14日
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進化が環境の同化である事が最もよくわかる例は、概日周期だ。他の惑星の生物を調べるとわかると思うが、地球の場合バクテリアから人間まで、24時間サイクル、即ち地球の自転を織り込んだメカニズムを進化させている。しかも、夜と昼の調整を可能にしてしている光による調整メカニズムも存在する。

今日紹介する米国衛生研究所からの論文は、光による概日周期調節が従来考えられていた以上に複雑で、逆に言うと様々な時差調整法が可能であることを示す研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「ipRGC properties prevent light from shifting the SCN clock during daytime(光を感知する網膜ガングリオン細胞は視交叉上神経時計を昼までもシフトさせられる)」だ。

私たちは、視覚に直接関わる桿体細胞や錐体細胞以外に、光を感じる網膜ガングリオン細胞 (ipRGC) が存在し、視交叉上神経を刺激して概日周期を光に合わせて調整している。例えば光のない夜に光にさらされると、概日周期を遅らせる。この論文を読むまであまり考えたことがなかったが、この光の効果は夜には効果があるが、昼には効果がない。と言っても昼に光があるのが当たり前で、当然と言えるが、実際一日中暗くして生活しているとき、自覚的な昼に光を当てても概日周期が変化しないことから、光の調整は体内に備わっている概日周期のフェーズによるとされてきた。

この研究では光ではなく、ipRGCを光ではなく遺伝学的操作で化学物質により興奮するようにすると、本来感受性のない概日周期フェーズでも周期を遅らせることを発見する。この発見がこの研究のハイライトで、後は何故普通に光を当てたのでは周期が変化しないのに、化学物質による刺激では周期が変化するのかの原因を探っている

一つの原因は、これまで知られていたグルタミン酸作動性の回路の他に、RACAPを伝達物質とする別の回路が存在し、これが同時に刺激されることで、昼までも周期を遅らせることがわかった。またこのipRGC神経は、視交叉上神経だけでなく、視床の外側膝上核へと投射する回路を形成しており、これが昼間の概日周期シフトを誘導していることがわかった。さらに面白いことに、この回路は周期の短い紫の光で選択的に誘導されることがわかった。化学物質で誘導するのと比べると周期の変化は大きくないが、昼間に紫の光を当てると1時間近く周期をずらすことができる。

この原因を生理学的に追求すると、通常の回路は普通は光に満ちている概日周期の昼にはipRGCの脱分極ブロックがかかるようになっており、これが光のないときでも概日周期が昼であれば周期が変化することを抑えている。しかし、通常の光以外の刺激や紫の光は、この脱分極ブロックが起こらないため、視交差上核回路に備わった周期の変化を防ぐ機構の影響を受けずに周期を変化させることができることがわかった。

結果は以上で、光による概日周期のメカニズムも複雑な回路形成になっていることがわかる研究だ。考えてみると、動物の多くは夜行性で、昼間寝ている。寝ていても強い昼の光はipRGCによる感じられているはずで、この結果周期がずれてしまうと生活リズムが成立しない。これを防ぐ為には視交叉回路でipRGCの脱分極ブロックは必須だと言える。また、この研究は我々が昼間に時差を調整したいとき、紫の光を使うと効果が上がるかもしれないことを示している。この分野は十分わかっていると思っていたが、まだまだ面白い発見がある。

  1. okazaki yoshihisa より:

    寝ていても強い昼の光はipRGCによる感じられているはずで、この結果周期がずれてしまうと生活リズムが成立しない。
    これを防ぐ為には視交叉回路でipRGCの脱分極ブロックは必須だと言える。
    Imp:
    視交叉回路でipRGCの脱分極ブロックは必須!
    様々な時差調整法が可能.

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