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1月16日 腸内細菌によるガン免疫活性化の極めつけメカニズム(1月14日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月16日
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腸内細菌、特にセグメント細菌 (SFB) と呼ばれる分節した繊維状形態をとる細菌が、ガンに対する免疫の活性化に重要な役割を持っていることが知られており、PD-1に対する抗体を用いたチェックポイント治療に細菌の力を借りる臨床研究が行われている。

細菌の効果については、SFBが腸粘膜を刺激してTh17型T細胞を誘導するアジュバント活性によると言う考えと、これに加えて細菌が発現している抗原がガン抗原と交叉反応を示す結果ガン特異的免疫が誘導されるからだという考え方がある。実際、腸で活性化されたT細胞が、抗原とは無関係にガン局所に浸潤すると考えるのはあまりにナイーブに思える。しかし、ガン抗原と交叉する抗原を見つけることは簡単でない。

今日紹介する腸の免疫学の大御所、ニューヨーク大学 Littman 研究室からの論文は、SFBがガン抗原と交叉する抗原を発現することがSFBのガン免疫促進効果の重要な基盤であることを示した研究で、1月14日号 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Microbiota-induced T cell plasticity enables immune-mediated tumour control(細菌によるT細胞の可塑性が免疫によるガンのコントロールを可能にする)」だ。

「交叉抗原が必要かどうかを解決するためには、SFBにガン抗原を発現させれば良い」と思ってしまう。実際、S.epidermidis皮膚細菌にガン抗原を導入してガン免疫が高まることを示した研究はある。しかし、SFB等のバクテリアを遺伝子改変することは簡単でない。Littman はこの難問を、SFBの抗原を腫瘍細胞に導入するという、まさにコロンブスの卵で解決したモデルを作った。

SFBを経口摂取させた後、普通のメラノーマとSFB-3340分子を導入したメラノーマをマウスに移植し、腫瘍が大きくなってからチェックポイント治療を行うと、SFBを摂取しSFB3340分子を導入したメラノーマの組み合わせだけがガンを抑えることができる。即ち、SFBの場合、ガン細胞と共通の抗原を発現していないとガン免疫を促進する効果が得られないことがわかった。

この実験系で最後の免疫反応の場である腫瘍組織を見ると、Th1型のサイトカインやキラー活性が普通よりブーストされたCD4及びCD8T細胞が腫瘍に強く浸潤していることがわかる。また、抗原がわかっているので、抗原特異的T細胞を調べるとSFB3340と同じ抗原を発現するT細胞が腫瘍組織で増加していることを示しているが、CD4T細胞は腸内で誘導されるTh17型ではなくインターフェロンを強く発現したTh1型であることがわかった。

この腸管から腫瘍までの過程を明らかにするため、抗原に対する受容体とTh17を除去したり、またその発現の歴史を追跡できるシステムを用いて解析し、SFBが腸管内で抗原特異的T細胞を誘導し、これがガン局所に浸潤して強い炎症を誘導できるTh1型へと変化することを明らかにしている。

一方、CD8T細胞は腫瘍内で誘導されるが、この時腸管でSFBにより誘導された抗原特異的T細胞が存在すると、抗原特異的キラー活性をさらに高めることが可能になる。もちろん、この時キラー細胞の活性維持にPD-1に対する抗体によるチェックポイント阻害は必要になる。

最後に、同じような実験をヘリコバクターで行うと、ガン免疫が増強するどころかFoxP3陽性のTregが選択的に誘導され、腫瘍免疫を抑制することも示している。

以上が結果で、バクテリアの抗原をガンに導入するというアイデアで、これまでの問題を解決したプロの仕事だと思う。今後SFBの遺伝子操作を発展させられれば、今度はガン抗原をSFBに導入して免疫を誘導する治療が可能になる。期待したい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Littman はこの難問を、SFBの抗原を腫瘍細胞に導入するという、まさにコロンブスの卵で解決したモデルを作った。
    バクテリアの抗原をガンに導入するというアイデアで、これまでの問題を解決したプロの仕事だ!
    Imp:
    外来抗原(細菌抗原、ウイルス抗原)は強力に抗原特異的T細胞を誘導可能!
    これを使った‘腫瘍内局所治療‘、大変魅力を感じる治療法です。

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