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1月22日 脳と病気(1月15日 Neuron掲載論文)

2026年1月22日
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「病で気が滅入ったり気落ちする」だけでなく、「病は気から」で気落ちすると病が進行する。脳と身体を切り離せないことを考えると当たり前だが、そのメカニズムを知ろうと多くの研究が行われている。

今日紹介する米国Cold Spring Harbor研究所からの論文は、乳ガンにより身体の概日リズムが壊れ、このリズムの変化が乳ガンへの免疫を低下させてガンの進展を助けることを示した研究で、1月15日号Neuronに掲載された。タイトルは「Aberrant hypothalamic neuronal activity blunts glucocorticoid diurnal rhythms in murine breast cancer(乳ガンでは視床下部の神経活動の異常がおこりグルココルチコイドの概日周期を低下させる)」だ。

おそらく最初はグルココルチコイドの概日リズムとガンの関係を調べようと考えていたのだと思うが、乳ガンを移植して便中のグルココルチコイドホルモンを持続的に調べると、分泌量が強く抑制されるだけでなく、概日リズムがフラットになることを観察する。

グルココルチコイドは視床下部、脳下垂体、副腎の間にある刺激とフィードバックループにより副腎から合成されるので、どのレベルでこの異常が起こっているのかを調べ、最終的に視床下部のコルチコトロピン放出ホルモンを産生する房室核の細胞の活動が上昇し、また活動のリズムがフラットになる事が、グルココルチコイドのリズム異常の原因であることを発見する。また、光遺伝学的にこの神経の興奮を高めてやると概日リズムはフラット化し、ガンの増殖が高まる。面白いことに、この神経を光遺伝学的に活性化するとき、朝に刺激を入れるとガンは抑制できるが、夕方に刺激するとガンの増殖は逆に少し促進する。まさに、ガンと脳下垂体神経とが相互に複雑な関係を持っていることがわかる。

この神経の活動をスライス培養で調べると、シナプスを形成して興奮を抑制する抑制神経からのインプットが高まり、その結果房室核神経の活動が高まることを発見する。そして、この抑制シナプスが視床下部背側部の神経由来であることを突き止める。概日リズムを調節する視交叉上部神経には直接投射はないが、視床下部背側部と視交叉上部は連結して概日リズムを調整しているので、何らかの経路を通して、ガンが視床下部背側部にシグナルを送り、コルチコトロピン放出ホルモン合成神経の興奮が抑えられなくなることが異常を誘導する回路であることを明らかにしている。

だとするとホルモン合成が高まるのかと思いきや、ガンは脳下垂体でのプロホルモンを活性化する酵素を抑えるため、さらに複雑にリズムが狂うことになる。さらに、グルココルチコイド自体はガンの増殖を高める方向に働くことから、ガンによってグルココルチコイドレベルが低下し、リズムがフラットになることでグガンの増殖が上昇する事をグルココルチコイドだけで説明できない。従って、何故ガンが視床下部背側部神経の活性を高め、脳下垂体のホルモン合成を抑えるのかという入り口と、視床下部や脳下垂体の異常がガンの増殖を高めるのかという出口も特定できていない。

ガンの増殖が高まる原因として、コルチコトロピン放出ホルモン産生細胞を朝に刺激してリズムを作るとCD8細胞がガンに浸潤しやすくなることを示しているので、おそらくこれが視床下部・脳下垂体・副腎回路のリズムがガンを抑制できる原因だが、これがグルココルチコイドのリズムでないとすると、自律神経リズムなのか今後の検討が必要になる。

以上が結果で、ガンにより視床下部・脳下垂体・副腎回路ループの異常が誘導されることは面白いが、ガンを中心とした回路がつながらなかったのは残念だ。

最後にエクストラとして、病は気からを人間で示したイスラエル・テルアビブ大学からの論文に言及しておく。タイトルは「Upregulation of reward mesolimbic activity and immune response to vaccination: a randomized controlled trial(中脳辺縁系報酬型の亢進はワクチンに対する免疫反応を上昇させる:無作為対照研究)」で、1月19日Nature Medicineにオンライン掲載された。

この研究では脳の辺縁系を高める課題を行わせ、その結果をMRIで評価し被検者にフィードバックするいわゆるニューロフィードバックを用いて、中脳辺縁系が高まった状態を誘導している。この時に肝炎ウイルスワクチンを注射し、14-28日目の抗体価を調べると、中脳辺縁系の中で腹側被蓋野の活性と相関することを発見している。

もちろんばらつきは多く、どこまで真に受けていいのか評価しにくいが、病は気からを調べるためにここまで研究が行われているのは驚きだ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    肝炎ウイルスワクチンを注射し、14-28日目の抗体価を調べると、中脳辺縁系の中で腹側被蓋野の活性と相関することを発見している!
    imp.
    神経系と免疫系の相互作用。
    謎多きテーマ。

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