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1月23日 一酸化窒素吸引だけで肺の細菌感染症を抑えることができる(1月21日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年1月23日
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一般の方にとって窒素酸化物は大気汚染物質のイメージが強いと思うが、その中の一酸化窒素 (NO) は血管拡張作用から臨床医学では重要な分子として研究されている。例えば、ニトログリセリンは古くから狭心症発作などに使われているが、体内でNOを放出して血管を拡張させることが効果の背景にある。NOは血管平滑筋のサイクリックGMPを誘導して血管を拡張させるが、この分解を阻害する酵素の阻害剤を開発する途中でバイアグラが生まれたのもNOを巡る面白いエピソードだ。さらに、呼吸器領域では、NOガスを吸引させて肺の血流を上昇させる治療も広く行われている。

今日紹介するハーバード大学マサチューセッツ総合病院からの論文は、同じNOを高濃度で吸引させることで、血管拡張作用はそのままで感染細菌の数を大きく減らす効果があることを示す面白い研究で、1月21日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Inhaled nitric oxide at 300 ppm treats multidrug-resistant Pseudomonas pneumonia in swine and is safe in humans(300ppmNO吸入によりブタと人間の多剤耐性緑膿菌感染症を治療できる)」だ。

この論文を読むまで全く知らなかったが、NOが抗菌活性を持つことは既に知られていたようだ。ただ、NOがヘモグロビンに結合すると酸素結合を阻害する可能性があり、実際NO吸入でメトヘモグロブリンが上昇する事が知られている。さらに、組織障害が起こる可能性もあるので、むやみに濃度を上げることは出来ない。

この研究ではNOを発生させるNOドナーを細菌培養に加えると容量依存的に細菌が死ぬことを確認した後、ブタを用いた緑膿菌感染モデルを用いた実験に進んでいる。これまで肺の循環を高める目的には50ppm以下の濃度が使われているが、抗菌効果を得るためには300ppmが必要で、まず肺内でこの濃度がベンチレーターを使って到達可能か、また肺機能に悪影響がないかを確認した後、緑膿菌を繰り返し感染させたブタに、NO単独で感染を抑えられるか調べている。

もちろん抗生物質と異なり100%の細菌を減らすというわけではない。しかし、NO吸入単独で肺内の緑膿菌数を2ログ、即ち100分の1に減らすことができる。またNO本来の肺血流改善効果も合わさって、肺機能不全による動脈血酸素量の低下を防ぐことが出来ている。肉眼解剖学、更には組織学的にも肺炎の進行を抑えることができていることは明確だ。

この結果をベースに、健康人ボランティアで、1日30分、3回、300ppmNOを吸引させ、5日目の肺血管機能、メトヘモグロビンなどを調べ、考えられる副作用は全くないことを確認している。

次に重症感染症でICUに入っている2人の患者さんを同じようにNO吸引を行わせ経過を観察、両患者さんとも39回の吸引治療を副作用なく続けることが出来、30日目の喀痰検査では細菌が消失していた。もちろん最大限の抗生物質を併用した上だが、NO吸入が十分な効果があったと結論している。マサチューセッツ総合病院では、過去6年間にすでに107人の患者さんを同じように治療しており、懸念される酸素結合能を喪失したメトヘモグロビンもほぼ10%以下に抑えられ(1例だけで11%)、副作用に関しては問題がなかったことも記述している。

結果は以上で、おそらく最終的治験は臨床専門誌に発表されるのだと思うが、馴染みのあるNO治療にこんな効果があるとは驚きだ。

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