ずいぶん昔になるが、盲腸を切除した人ではパーキンソン病 (PD) のリスクが低下していることを発見し、PDの原因である異常シヌクレインが盲腸で合成されていることを示す論文を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/9180)。この仮説がどこまで受け入れられているのか定かではないが、PDの始まりが脳か腸かについてはPDでもホットな領域として研究が続いている。
今日紹介する University College London からの論文は、盲腸とは違って主に十二指腸の筋層に存在するマクロファージが異常シヌクレインの産生元と言うだけでなく、PDの炎症を腸から脳へと伝搬する役割も持ったヤバい細胞である事を示した研究で、1月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Intestinal macrophages modulate synucleinopathy along the gut–brain axis(腸内マクロファージはシヌクレン症を腸から脳への軸を介して変化させる)」だ。
この研究は動物実験を通して腸から脳への PD の伝搬可能性を確かめることにある。そのために、凝集しやすい変異をもつ αシヌクレインを神経やT細胞で発現し、典型的 PD 脳症状を発症するマウスを用いて、腸と脳でシヌクレインの蓄積を調べている。すると、筋層にあるマクロファージ (ME-MC) で早くから異常シヌクレインの蓄積が見られることを発見する。またその結果、マクロファージに取り囲まれた筋層の神経節の機能が阻害され、便通が低下することもわかった。即ち、神経由来の異常シヌクレインをマクロファージが取り込んで、神経異常を起こしていることになる。また異常シヌクレインを取り込むことで、オートファジーが亢進し、ME-MC も活性化される。
驚くのは ME-MC がシヌクレインを取り込むことで、神経から神経へとプリオンのように伝搬活性を持つ異常シヌクレインへと転換されるという結果で、PD の起源が ME-MC である可能性が強く示唆される。ただしこの変化は筋層の ME-MC だけで、腸管のマクロファージには全く見られない。
次は腸から脳へ異常シヌクレインが伝播するかを調べるため、神経間で伝搬する活性のあるヒトPD由来シヌクレイン線維を直接十二指腸に注入すると、早くから筋層の神経節に異常シヌクレインが蓄積し、その結果便通が低下する。そして3ヶ月目には脳幹にも異常シヌクレインが現れる。以上の結果から、十二指腸で形成される、あるいは吸収された異常シヌクレインは、脳内へと伝播することがわかる。
PD のほとんどは遺伝性が明確ではなく、誰がなってもおかしくない。これを孤発性と称しているが、腸管内のマクロファージが異常シヌクレインを外界の刺激や、あるいは何らかの間違いで作るとすると、孤発性の発症過程も理解できる可能性がある。
ここまででも十分面白いのだが、この研究では異常シヌクレインを取り込んだ ME-MC が MHC を強く発現してT細胞を刺激し、そのT細胞が脳へと移動することを、腸局所での凝ったT細胞ラベリング実験によって証明している。そして、T細胞抗原受容体のシークエンシング解析から、おそらく腸と脳内で同じ抗原に対する免疫性炎症を誘導して PD の神経細胞死を助長する可能性を示唆している。しかし、T細胞の役割を明確にする実験は行われていない。
最後に、CSF-1 受容体へのモノクローナル抗体とCCR2へのモノクローナル抗体を用いて ME-MC を比較的選択的に除去することが出来ることを示し、PD由来シヌクレイン線維を十二指腸に注射する実験で、ME-MC が除去されていると、PD病理が抑えられ、さらにT細胞の病変部位への浸潤も抑えられる事を示している。
以上が結果で、ME-MC が異常シヌクレインを形成して脳へと伝搬することと、腸内で抗原特異的炎症誘導T細胞を誘導して脳へと移行させる、2つの経路で PD 発症の主役になっていると結論している。ME-MC を抑制する方法が人間でも利用できると、意外なPD治療薬が誕生することになるが、さてどうなるか?もう少し様子を見たい。

ME-MC が異常シヌクレインを形成して脳へと伝搬することと、腸内で抗原特異的炎症誘導T細胞を誘導して脳へと移行させる、2つの経路で PD 発症の主役になっていると結論.
Imp:
筋層にあるマクロファージ (ME-MC)がPDの真犯人!?
PD研究も熱いようです。