2000年に始まった再生医学のミレニアムプロジェクトの目標の一つは、自己免疫反応によってインシュリンを分泌するβ細胞が欠損した1型糖尿病の患者さんに、多能性幹細胞から誘導した膵島細胞を移植して機能を回復させるというテーマだった。他の目標と比べると、競争相手も多く、必要な細胞数も多いため、最も難しい目標だと思っていたが、昨年京大のCiRAと京大病院が既に臨床治験を行っていると聞き、うれしい限りだ。ミレニアムプロジェクトの生みの親とも言える京大元総長の井村先生は、現在95歳で全く歳を感じさせないほどお元気で、この前京大芝蘭会館で一緒に昼食をとりながら、坂口さんや山中さんを擁した京大再生研設立を手始めに、ミレニアムプロジェクト、そして今回ノーベル化学賞の北川さんを擁したWPIプロジェクト発足と続いた様々な事業の話で盛り上がったが、特に再生医学が当時期待した以上の進展を見せてくれていることを喜んでおられた。
この京大の膵島移植で用いられたのが、ハイドロゲルファイバーに出来た膵島を閉じ込めて、他家由来の膵島でも免疫反応を誘導できないように隔離する方法だが、免疫隔離法については様々な方法が開発されている。
しかし、隔離できたから長期間安全にインシュリンを作ってくれると期待するのは早いようだ。今日紹介するMITからの論文は、隔離に使われるゲルに対する異物反応を抑え長期に細胞機能を維持できるシステムを開発したところ、Allo=他家の細胞はこの方法で長期間維持できるのに、Xeno=他種になると隔離していても強い免疫反応が起こることを示し、細胞を免疫から隔離する方法はまだまだ完全でないことを示した研究で、1月28日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Crystallized colony-stimulating factor-1 receptor inhibitor protects immunoisolated allo but not xeno transplants in primates(CSF-1受容体の結晶化した阻害剤は免疫隔離した他家細胞は守れるが他種になると守れない)」だ。
この研究では、サルiPS細胞由来膵島をハイドロゲルに閉じ込めて、膵島を破壊したサル(人間で言うとAlloになる)の腹腔内網囊に移植したとき、最初の50-60日目にはなんとか血中グルコースをコントロールできていても、100日たつとほとんど膵島の機能を果たさないことを示し、ハイドロゲルが必ずしも万能でないことを示している。この原因を探るために、1年後にゲルを取り出して中の細胞を調べると、案の定ゲル内の細胞はほとんど死んでいる。この失敗の原因は免疫隔離の失敗ではなく、ゲルに対する異物反応によりゲル内への様々な分子供給が滞るためであることを明らかにする。
異物反応は最初マクロファージにより引き金が引かれるので、マクロファージの活性化に関わるCSF-1受容体をブロックすることで、ハイドロゲルに対する異物反応を抑えられるのではないかと考えた。しかしCSF-1受容体阻害剤を投与し続けることは問題が多い。そこでCSF-1受容体阻害剤GW2580をまず結晶化して化合物がゆっくり放出されるようにし、この小さな結晶をゲルの中に膵島細胞と一緒に閉じ込め、膵島を破壊したサル網囊に移植した。すると今度は、ほぼ一年近く血中グルコースを正常に保ち、正常に機能することがわかった。1年後にゲルを取り出すと、ゲルに対する異物反応は抑えられており、阻害剤結晶も2%程度残存していること、そして閉じ込めた細胞の75%以上が生き残ってインシュリンを分泌していることがわかった。以上の結果、ゲル内のCSF-1受容体阻害剤結晶は、1年ぐらいは保持され異物反応を防いでくれることがわかる。京大ではハイドロゲルの線維が使われているが、もしこのような物理的方法で異物反応が防げるとしたら期待できる。いずれにせよ、ハイドロゲルを用いたAllo膵島移植の今後の課題が生体の異物反応抑制である事がよくわかる。
次に、免疫隔離と異物反応抑制が実現すれば、Xeno=即ち異なる種の膵島でも移植出来るかを調べている。このため、実際に患者さんに利用されたヒト膵島細胞をCSF-1受容体阻害剤結晶と一緒にハイドロゲルに閉じ込め、サルの網囊に移植している。ところが期待に反して、全くうまく働かない。1ヶ月後にゲルを取り出そうとすると基質化しており、組織から外れてこない。即ち同じゲルで異物反応を抑えているのに強い組織反応が起こって、中の細胞が死滅していることがわかった。
遺伝子発現や組織学的に調べると、自然免疫反応に加えて、CD4T細胞やBリンパ球の強い浸潤が起こっており、遺伝子発現のタイプから抗原に対する免疫反応が起こっていることがわかった。残念ながら、反応している抗原などについては全く解析できていないので、何故ゲル内の細胞が免疫反応を誘導するのかについては明らかでない。Xeno細胞からかなり強い抗原がゲル外に分泌されるのではと考察しているが、説得力はない。
以上、免疫隔離法を利用するときの異物反応の重要性と対処方法の開発は重要な貢献だが、明らかになったXenoとAlloの差は免疫学的には全く新しい課題として解いていく必要がある。

自然免疫反応に加えて、CD4T細胞やBリンパ球の強い浸潤が起こっており、遺伝子発現のタイプから抗原に対する免疫反応が起こっている!
Imp:
抗原は特定されてないようですが異種移植の障害のひとつ!