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2月1日:全長1mの単細胞(PlosGenetics1月号掲載論文)

2015年2月1日
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今アドバイザーとして勤めているJT生命誌研究館では、様々な動物が研究対象として使われている。その中には、医学部を卒業してから、人間を含む哺乳動物以外扱ったことのない私にとって、全く見たこともなかった動物も存在している。しかし医学に限らず論文を漁って様々な生物の成り立ちを知ると、驚くべき生物が私たちの身近に生きていることを知る。2013年に紹介した性生殖なしに4億年生きてきたワムシのゲノムもそうだった。しかし今日紹介するカリフォルニアデービス校から発表されたCaulerpa taxifoliaと呼ばれる藻の仲間についての論文はさらに驚きで、生物の多様性を本当に実感させる研究だった。タイトルは「An intracellular transcriptomic atlas of the giant coenocyte caulerpa taxifolia(巨大多核細胞caulerpa taxifolia の細胞内遺伝子発現地図)」でPlosGenetics誌1月号に掲載されている。ほとんどの方は私と同じで、caulerpa taxifoliaなる藻についてはご存知ないと思う。この藻は、数多くの核が一つの細胞の中に存在する生物で、大きさは時に1mにも達する。私たちの体にも破骨細胞のような多核細胞は存在するが、1mの大きさとなるとスケールが違う。調べてみると、caulerpa taxifoliaに近いAcetablariaでは通常は全くの単細胞で、大きさは5−10cmに達する。こんな生物がいることを全く知らなかったとは、物知りになるのにはまだまだ道のりは遠いと確信した。この研究では、全く仕切りのない単細胞でも体の部分の分業が成立しているのかどうか、身体各部からmRNA採取して塩基配列を決め、どの遺伝子のmRNAがどの部分に濃縮されているかを調べている。細胞自体に仕切りがないことから、普通ならどの体の部分も同じmRNAが分布していてもいいはずだ。結果は著者らの期待通りというか、詳しくは述べないが、根、茎、葉など体のそれぞれの場所に応じて、分布するmRNAのコードする遺伝子が異なっていることが分かった。わかりやすい例で言うと、光合成に関わる遺伝子はpinnuleと呼ばれる葉に似た場所に濃縮している。次にcaulerpa taxifoliaを、通常の多細胞植物であるトマト各部の遺伝子発現と比べている。トマトは多細胞生物で、もちろん細胞という仕切りがあるため、各部の細胞ごとに転写調節を行い、発現する遺伝子を決めている。さて、両者を比べると、単細胞でも、多細胞でも、同じ機能を持つ部分で発現する遺伝子に共通性があることが明らかになっている。単細胞も、多細胞と同じように発現遺伝子の分布を体の部分に応じて変化させて分業を達成している。結果はこれだけだが、この生物は私たちの知らないことを教えてくれそうだと期待できる。細胞という仕切りからどうすれば解放されるのか?私たちが細菌から抗生物質、Taqポリメレース、クリスパー、様々な光感受性分子を得たように、常識を覆す生物には多くの能力が眠っている。などと考えるのはやはり医学部卒の悪い癖か?単純に驚いて終わろう。

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