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2月12日 表皮突起の発生(2月4日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月12日
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ほとんどの読者にとって表皮突起は聞き慣れない言葉だと思うが、毛の少ない哺乳動物にとって上皮を身体にしっかりと貼り付けて皮膚の強度を守るための重要な構造物で、上皮が真皮に向かって突起の様に伸びた構造をとり、イルカやクジラ、ブタ、人間で発達している。進化の系統樹より、体毛の多さに関係して出来ており、人間に近いサルでも表皮突起はほとんど存在しない。また、体毛の多い動物でも、指先のような毛の少ない領域には表皮突起が見られる。

体毛の少ない動物がどうして生まれたのかは今も謎だが、体毛の量と反比例する表皮突起の形成は、長年の問題を解く鍵になるのではと、表皮突起の発生メカニズムを研究したのが、今日紹介するワシントン大学からの論文で、2月4日号 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Rete ridges form via evolutionarily distinct mechanisms in mammalian skin(哺乳動物の表皮突起は進化的に独自のメカニズムで発生する)」だ。

皮膚の研究というとどうしてもマウスになるので、ほとんど表皮突起の研究は行われていないように思う。この研究では、まず人間とブタの表皮の発生を調べ、どちらも毛根や汗腺などの付属組織の発生が終わった段階で生後に発生し、一生涯維持されることを確認している。基本的にはブタも人間も同じ発生過程をたどるので、分子生物学的検討は主にブタで行っても問題ないことを確認している。

論文の圧巻は、イルカ、hairlessブタ、domesticブタ、毛の多いMangalitsaブタ、人間、グリズリー、アカゲザル、ハダカデバネズミ、マーモセット、マウスの皮膚を比べた組織図で、大まかには毛の密度が減ると、表皮突起が発達し、最も発達したのがイルカである事、サルはほとんど表皮突起が見られないので進化とは関係ないことがわかる。面白いところでは、ハダカデバネズミのような毛のない齧歯類だから表皮突起が出来るわけではなく、退化で毛がなくなっても表皮突起は出来ないこともよくわかる。

後は発生のメカニズムだが、皮膚の付属組織に関わるLEF-1-Wnt及びEDA-EDARはノックアウトして付属組織が消失しても表皮突起は形成される。即ち、毛の密度と反比例するように進化するが、一旦出来た発生の仕組みは、毛がなくなってもそのまま維持される。これは人間の頭皮にも表皮突起があるのと同じメカニズムと考えられる。

主にブタ皮膚発生過程で Single cell RNA sequencing 、組織学的細胞動態の観察などを組み合わせて表皮突起形成に必要なシグナルを探ると、重要なシグナルとしてBMPとNOTCHが特定されてきた。もちろん他にも PDGFC など真皮側の細胞に関わるシグナル分子も特定できる。そして、細胞の増殖を調べると、表皮突起形成は細胞増殖層の異なる分布により、増殖して深く真皮に入り込む山の部分と谷の部分が形成されていることを示している。

ただ、これらのシグナルの関与を全て機能的に検討するのは実験的にも難しい。代わりに、BMPシグナルに関しては、マウスの指の皮膚に表皮突起が見られるのを利用して、皮膚でBMPシグナルを抑制する実験を行い、表皮突起の形成が阻害されることを示している。

結果は以上で、表皮突起も一種の独立した皮膚付属物として考える必要があること、また毛根や汗腺と言った他の付属物の発生原基の形成が終わった後で、BMPなど様々なシグナルを動員して、表皮突起と同時に、表皮突起のないポケットへの血管新生などを協調して進めるのが表皮突起形成であることを示している。出来れば、毛根などの付属組織のないイルカでの進化や発生がわかると、我々人間が体毛を減らした原因もわかるかもしれない。

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