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2月13日 リンパ浮腫に関する新メカニズムと治療(2月11日 Natureオンライン掲載論文)

2026年2月13日
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例えば乳ガンで腫瘍切除とともにリンパ節の郭清を行うと、切除側のリンパ管が機能しなくなりリンパ浮腫が起こる。リンパ管の再生も起こるはずなのに、リンパ浮腫の治療は難しく患者さんたちを苦しめる。下肢に起こる重症のリンパ浮腫では、ゾウの足のようになってしまい、単純に体液の循環が悪いという以上に、局所の組織の不可逆的なリプログラミングが起こる。

今日紹介する国立シンガポール大学からの論文は、リンパ浮腫をコレステロール蓄積という観点で見直し、コレステロール除去により症状を改善させることが可能であることを示した重要な研究で、2月11日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Targeting excessive cholesterol deposition alleviates secondary lymphoedema(過剰なコレステロール蓄積を標的にすることでリンパ浮腫を改善できる)」だ。

病院で働いていたときリンパ浮腫の患者さんの受け持ちになったこともあるが、今回リンパ浮腫の患者さんの組織像を見て、単純に体液が溜まると言った話でないことがよくわかった。ステージが進むと皮下脂肪細胞の肥大が進み、上皮下の強い線維化と肥厚が起こっている。そして、自然炎症が高まるというより、脂肪細胞分化に関わる遺伝子の発現がほとんど消失して、要するに脂肪細胞のリプログラミングが起こっている。炎症の観点から見ると、線維芽細胞の刺激とTh2反応が誘導されている。

この研究では、リンパ浮腫の患者さんで組織にコレステロールが沈着していることに着目し、まず外科的処置でリンパ浮腫が改善した患者さんを調べ、コレステロールの沈着が軽減していることを発見、リンパ浮腫の主要原因がコレステロールがリンパ管に沈着し、組織液のリンパへの灌流を妨げるからではないかと考えた。

そこで高コレステロール症が発症するApoEノックアウトマウスの皮下組織を調べると、コレステロールがリンパ管に沈着し、特に皮下脂肪組織の肥大と線維化が進んでいること、すなわちリンパ浮腫と同じ組織像を示すことが明らかになった。

このマウスにコレステロールを下げる目的で、HDLやApoA-Iを注射すると、コレステロールが下がることでリンパ浮腫が軽減する。ただこの治療法はリコンビナントタンパク質合成などコスト面での問題があるので、この代わりにコレステロールに巻き付いて排出する効果を持つシクロデキストリン(CD)の皮下投与でリンパ浮腫を改善できないか、ApoEノックアウトマウス、外科的に誘導した下肢リンパ浮腫、他様々なリンパ浮腫モデルを用いて試している。

結果は期待通りで、完全に元に戻るわけではないが、コレステロールの組織への沈着が押さえられ、浮腫を抑えることができることがわかった。さらに、長期的に経過を追うと、CD投与を受けることでリンパ管新生も促進され、組織に開いたリンパ管端末の数が2倍に増加することがわかった。すなわち時間がたてば、さらに浮腫は軽減していく可能性が大きい。結果は以上で、CDが食品に広く使われ、さらにリソゾーム病の治療に髄腔内投与が行われていることを考えると、人間への臨床応用もそう遠くないと思う。

この研究は、リンパ浮腫を新しい観点―即ち過剰コレステロールがリンパ管の入り口に沈着することが主要原因であるという観点―から見直し、これを証明するとともに、安価な治療法まで提案した重要な貢献で、臨床研究のお手本になると思う。この考えに立つと、外科的にリンパ管を除去してしまった場合でも、時間がたてば浮腫からの回復を期待できる希望が生まれたと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    リンパ浮腫を新しい観点―即ち過剰コレステロールがリンパ管の入り口に沈着することが主要原因であるという観点―から見直し、
    これを証明するとともに、安価な治療法まで提案した重要な貢献で、臨床研究のお手本!
    Imp:
    コレステロールとリンパ浮腫の意外な関係。

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