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2月23日 スタチンの副作用の再検討(2月14日号Lancet掲載論文他)

2026年2月24日
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当時の三共製薬(現在は第一三共)の遠藤さんにより開発されたHMG-CoA reductase阻害剤スタチンは、おそらく何千万人もの人に利用され、動脈硬化に起因する心臓死を防いできた。特に生活習慣病の薬剤として長期にわたって安全に服用し、病気を防ぐという意味では画期的な薬剤で、私たち夫婦もその恩恵にあずかっている。使用に当たって最も重要なのが副作用で、例えばリポバス(シンバスタチン)の説明書には、横紋筋融解などの筋肉症状に加えて、肝炎、肝機能障害、黄疸、末梢神経障害、間質性肺炎が可能な副作用として書かれており、血中の酵素で調べるいわゆる肝機能検査が異常値だと、使用を躊躇することになる。実際スタチンの副作用が20%の人に見られるという論文が発表された後1年間に、英国だけで20万人の患者さんがスタチンをやめ、その結果2000-6000例の心臓発作を予防できなかったと推定されている。

今日紹介するCholesterol Treatment Trialists(CTT)と名付けられたオックスフォード大学を中心にした国際グループからの論文は、スタチンの大規模治験のメタアナリシスだが、参加者の個人データを再検討して副作用について調べ直した研究で2月14日号のLancetに掲載された。タイトルは「Assessment of adverse effects attributed to statin therapy in product labels: a meta-analysis of double-blind randomised controlled trials(説明書に書かれているスタチン副作用の検討:無作為化二重盲検治験のメタアナリシス)」だ。

この研究では、個人データを再検討できる19の治験について、特にFalse Discovery Rateを制御した上で、副作用を解析し直している。その結果、確かに高用量で血清のトランスアミラーゼは高まることは観察されるが、アルカリフォスファターゼやγGTの上昇は観察されず、閉塞性肝疾患、黄疸、肝不全が起こることはないと結論している。

他にも、尿タンパクの上昇は見られることがあるが、沈渣で血球が見られる異常は起こらず、また浮腫が起こるという報告は全くない。他にも、認知機能、ウツ症状、睡眠障害、末梢神経炎もスタチンの副作用として認定できない。

以上の結果から、説明書はもっと現実的な指示に変えるべきであると結論している。即ちこれまでの副作用リストを省くのが難しい場合、実際の可能性についてもう少し詳しく書き直すべきだと推奨している。

ただ、この研究で調べ直していないのがスタチン服用による筋肉症状で、これについては昨年12月に米国コロンビア大学からThe Journal of Clinical Investigationに、11月20日にカナダBritish Clumbia大学からNature Communicationsに、副作用発症メカニズムについての研究が発表されているので、短く紹介する。

両方の論文とも、スタチンと、筋肉に発現しているカルシウムチャンネル放出チャンネル・リアノジン受容体とスタチンの結合をクライオ電顕で構造的に解析し、スタチンの結合によりチャンネルの孔が大きくなりカルシウムが過剰放出されるのが筋肉症状の原因である事を突き止めている。

最初の論文ではシンバスタチン、次の論文ではアトルバスタチンとそれぞれtype 1, type2の異なるスタチンが用いられているが、結論はほぼ同じで、複数のスタチンがリアノジン受容体に結合して、構造を変化させる。即ち、スタチンが本来の標的以外の分子に結合することで副作用が生じる。

後はシンバスタチンだけについて説明すると、通常の薬のように分子のポケットに入るのではなく、チャンネルが孔を形成している領域の比較的オープンな構造にシンバスタチンが結合し、これによる構造変化でアクセスできるようになった部分にもう一つのシンバスタチンが結合して、穴が大きくなることが構造的に示されている。

以上の結果から、リアノジン受容体への結合はどのスタチンでも見られることから、スタチン服用で筋肉からのカルシウム放出が誘導される可能性があることは間違いない。しかし、結合自体が分子のオープンな構造を標的にした弱い反応である事、複数のスタチンが結合しないと最終効果が得られないことなどから、正常の人では、その後の適応によりほとんど問題にならないと結論している。

一つ明確になった重要な問題は、リアノジン受容体の変異を持つ患者さんでは、スタチンの効果が高まってしまうため、重症な筋肉障害につながる可能性があることが示された点だ。スタチンによるカルシウム放出亢進は、症状の全くない片方の染色体にだけ変異がある人でも見られることから、遺伝子検査を行ってリスクを防ぐことが副作用軽減の最も重要なポイントになる。

ただ、スタチンが結合する時に働く疎水性の領域は、HM-CoA reductazeの結合には必要無いので、今後筋肉症状を誘導しないスタチンを設計することは可能だ。さらに、カルシウムチャンネルを修復するRycalを併用することで、症状を防ぐことも出来るので、絶対必要な場合スタチンを諦める必要はないというのが結論になる。

今や脂肪を下げると宣伝している飲料などよりずっと値段も安く、さらに効果ははっきりしているので当分は服用を続けよう。

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