昨年4月3日シマウマの縞が、大量に血液を吸うアブやツェツェ蝿を寄せ付けないようにするための防御システムであるとするNature Communicationsの論文を紹介した。意外な結論に私も驚いた。しかし、進化の研究は再現実験が難しい。相関性だけでは、必ず反論が出る。案の定、1月31日号のRoyal Society Open Science誌にUCLAから反論が出た。公平を期す意味でも紹介することにした。タイトルは「How the zebra got its stripes: a problem with too many solution (シマウマの縞はどうできたのか:方法が多すぎることの問題)」だ。で、今回の結論は?答えはズバリ、「シマウマの縞は暑さ対策のために生まれた」だ。4月に紹介した論文では、縞があるかどうかと、肉食獣の存在や、アブやツェツェ蝿、温度などとの相関を調べていた。今回は、縞の数や太さ濃さを総合した指標を、周りの環境要因と相関させている。結果、足や胴体のシマの強さの指標と温度が最も相関している。アフリカの赤道付近から南アフリカまで、それぞれの地域に生息するシマウマの写真を並べられると、確かに暑いところのシマウマでは縞も太く、数も多い。特に足の縞は差が顕著だ。ではどうして縞が暑さ対策になるのか?特に生理学的研究は行っていないが、なんと1900年に英国の研究者によって提案された可能性を引用している。即ち、黒い部分と、白い部分では熱吸収が異なり、温度の上昇に差が出る。この温度差が、空気の流れを生んで、換気を促進し、結果、体が冷えるという説だ。聞くだけでなるほどと説得されてしまう。とはいえ、前の論文では縞の有無、今回は縞の強さが指標になっており、同じ実験で議論しているわけではないので、おそらく論争は続く気がする。私たち素人にとっては、シマウマの縞のパターンの大きな変化を知るだけで、十分物知りになれる、面白い研究だ。もちろん哲学的意味でも考えることの多い研究だ。私たちはシマウマとは何かを考えるとき、個別のシマウマとは違う抽象的なシマウマを真の姿として想起してしまう。これは唯名論だが、真実は個別の認識にあるのか、あるいはイデアにあるのかは長く哲学の課題だった。しかし、個別をしっかりと観察することからしか科学が始まらないことをこの研究も示している。自分で見ることが叶わない私は、やはり科学に頼るしかない。